最後にもうひとつの伝説を──

似た者同士の対決となった一戦。松本のMF杉山(手前右)は「今度は参入戦で勝つ」と意気込む。写真:川端暁彦

望外の結果を残した松本山雅U-18イレブン。今年のJユースカップを彩った“華”だ。写真:川端暁彦
「気持ちには引力がある」
かつてチームを率いた森山佳郎(現U-16日本代表監督)が残した言葉は、いまもサンフレッチェ広島ユースにとって座右の銘のような存在で、試合ではその文言が刻まれた横断幕が掲示されるのが常である。最後まで諦めないヤツのところにチャンスは転がってくるのだという信念と、そういう気持ちを持った選手たちの集団こそが、観衆を惹き付ける──。その両方の意味を包含した名言だ。
もちろん、これが気持ち「だけ」になってしまうようでは話にならないのだが、そこにベースがあることだけは絶対に揺らがない。その意味で、11月13日のJユースカップ準決勝で対峙した松本山雅U-18は「似たもの同士」(沢田謙太郎監督)と言える相手だった。
単にシステムが同じというだけではなく、気持ちの強さと団結力を前面に押し出すスタイルは、幾多の奇跡的勝利を重ねてきた歴代の広島ユースの“色”にも重ねって見えるもの。沢田監督は映像を観ながら「ウチと似ている」と直観的に思ったと言う。
そんな試合は、まさに「粉砕」というほかない内容になった。
広島は立ち上がりから猛烈なラッシュをかけると、MF川井歩(2年)の直接FKによる先制点を皮切りに大量7得点。相手が初の4強入りを果たしたチームという予断を持つことなく、試合開始から全力で襲いかかった。広島側の、まるで百獣の王のようなマインドが生み出した圧勝劇だ。「気持ちの強さ」と一口に言ってもいろいろあるが、この油断の欠片も見せずに押し出された闘争心は、間違いなく引力を生み出し、松本を飲み込んでしまった。
とはいえ、このエンディングをもって松本山雅U-18の挑戦をネガティブに総括するべきではないだろう。
広島をアクセル全開にさせたのは、松本がここまで確かな足跡を刻んできたからこそ。「球際、走る、戦う。これは自分たちの生命線」(MF杉山俊/3年)というモットーそのままの試合を見せて、数年前までJユースカップでの大敗が当たり前だったチームが、「準決勝で大敗」という地点にまで達した意義は、決して小さなものではない。
この日、キャプテンマークを代理で預かった杉山は準決勝での敗因として「大舞台での経験不足」を挙げつつ、「2年生がこの大会での経験を活かしてくれれば」と期待を込めて話した。これもまた、大会を通じて得るモノがあった実感があるからこそ出てくる言葉だろう。
そして3年生たちの戦いも、まだ終わっていない。11月19日からは高円宮杯プリンスリーグ北信越の参入戦が始まる。より高いレベルの試合経験を積む環境を後輩たちに残すために──。すでに伝説を作ったとさえ言える世代だが、「今度は参入戦で勝つ」(杉山)ことで、最後にもうひとつの伝説を残す覚悟だ。
取材・文:川端暁彦
かつてチームを率いた森山佳郎(現U-16日本代表監督)が残した言葉は、いまもサンフレッチェ広島ユースにとって座右の銘のような存在で、試合ではその文言が刻まれた横断幕が掲示されるのが常である。最後まで諦めないヤツのところにチャンスは転がってくるのだという信念と、そういう気持ちを持った選手たちの集団こそが、観衆を惹き付ける──。その両方の意味を包含した名言だ。
もちろん、これが気持ち「だけ」になってしまうようでは話にならないのだが、そこにベースがあることだけは絶対に揺らがない。その意味で、11月13日のJユースカップ準決勝で対峙した松本山雅U-18は「似たもの同士」(沢田謙太郎監督)と言える相手だった。
単にシステムが同じというだけではなく、気持ちの強さと団結力を前面に押し出すスタイルは、幾多の奇跡的勝利を重ねてきた歴代の広島ユースの“色”にも重ねって見えるもの。沢田監督は映像を観ながら「ウチと似ている」と直観的に思ったと言う。
そんな試合は、まさに「粉砕」というほかない内容になった。
広島は立ち上がりから猛烈なラッシュをかけると、MF川井歩(2年)の直接FKによる先制点を皮切りに大量7得点。相手が初の4強入りを果たしたチームという予断を持つことなく、試合開始から全力で襲いかかった。広島側の、まるで百獣の王のようなマインドが生み出した圧勝劇だ。「気持ちの強さ」と一口に言ってもいろいろあるが、この油断の欠片も見せずに押し出された闘争心は、間違いなく引力を生み出し、松本を飲み込んでしまった。
とはいえ、このエンディングをもって松本山雅U-18の挑戦をネガティブに総括するべきではないだろう。
広島をアクセル全開にさせたのは、松本がここまで確かな足跡を刻んできたからこそ。「球際、走る、戦う。これは自分たちの生命線」(MF杉山俊/3年)というモットーそのままの試合を見せて、数年前までJユースカップでの大敗が当たり前だったチームが、「準決勝で大敗」という地点にまで達した意義は、決して小さなものではない。
この日、キャプテンマークを代理で預かった杉山は準決勝での敗因として「大舞台での経験不足」を挙げつつ、「2年生がこの大会での経験を活かしてくれれば」と期待を込めて話した。これもまた、大会を通じて得るモノがあった実感があるからこそ出てくる言葉だろう。
そして3年生たちの戦いも、まだ終わっていない。11月19日からは高円宮杯プリンスリーグ北信越の参入戦が始まる。より高いレベルの試合経験を積む環境を後輩たちに残すために──。すでに伝説を作ったとさえ言える世代だが、「今度は参入戦で勝つ」(杉山)ことで、最後にもうひとつの伝説を残す覚悟だ。
取材・文:川端暁彦