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UEFAスーパーカップは実験場だった──ウディネ発「次世代スタジアム」の衝撃【現地ルポ】

カテゴリ:ワールド

リカルド・セティオン

2025年09月01日

アプリ予約でトイレ待ちの列はゼロ!

サステナブルなウディネのブルーエナジー・スタジアム。(C)Getty Images

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 8月中旬、チャンピオンズリーグ王者のパリSGとヨーロッパリーグ王者のトッテナムが戦うUEFAスーパーカップが行なわれ、PK戦の末にパリSGが勝利した。しかし今回、私が綴りたいのはこの試合の話ではない。この試合の舞台となったイタリアの小都市、ウディネのスタジアムのことだ。

 スーパーカップ決勝の会場がウディネに決まった時、多くの人が何かの間違いだと思った。

「ウディネ? 本当に? こんな小さな町で?」

 しかし、それにはれっきとした理由があった。
  
 試合の行なわれたウディネのフリウリ・スタジアムは1976年に建設された。ウディネーゼの本拠地でもあり、かつてはジーコもここでプレーしていた。1990年にはワールドカップの会場にも選ばれたが、2010年を過ぎた頃には、スタジアムはすっかり老朽化していた。無駄に電気代の高い照明、水漏れ、古いトイレ……。

 そこで2013年、ウディネーゼはウディネ市からスタジアムがある場所の99年間の地上権を取得、新たにスタジアムを立て直すことにした。その際に目指したのはサステナブルな超最先端スタジアムだった。

 プロジェクトの中心はウディネーゼの伝説的オーナー、ポッツォ・ファミリーだったが、彼らだけで作ったわけではない。自治体や国の環境省と協力し、イタリア人建築家、フランス人エンジニア、ドイツ人環境専門家、そしてインテリジェント・システムには日本人技術者を呼び、最高のスタジアムを目指した。

 費やした金額は1億2000万ユーロ。決して安くはなかったが、彼らが作りたかったのは単なるスポーツ施設ではなく、将来、世界中が追随するようなモデルとなるスタジアムだった。

 現在、ブルーエネジー・スタジアムと呼ばれるここでは、スタジアムで発生する廃棄物の90%以上がリサイクルされる。2万5200席の椅子はすべては再生プラスチックで作られ、天然芝と人工芝のハイブリッドのピッチでは農薬は使われず、生ごみから作られた堆肥で育てられている。
 
 地下には巨大な雨水タンクがあり、スタジアムで使われる水のほとんどはこれで賄われる。ピッチの水まき、トイレ、清掃。おかげで毎年、1000万リットルの水が節約できているという。

 そして屋根には1500枚のソーラーパネルがあり、年間60万キロワット時のクリーンエネルギーを生産している。約130万世帯の電力をまかなえる大きさだ。おかげでスタジアムは、これで完全に維持することができる。いや、時に余ることもあるので、残りの電力は市に無料で提供されるのだ。照明はすべてLED、必要なところだけ点灯するインテリジェントなもので、人がいないときは自動的に消灯するようになっている。

 例えばミュンヘンのアリアンツ・アレーナやアムステルダム・アリーナでも、ソーラー発電や雨水利用などの試みが行なわれているが、その巨大な収容人数もあって100%エコロジーに維持されるのは難しい。ウディネのようなバランスがとれた状態は非常に難しいのだ。

 スーパーカップ決勝は、それが本当にうまく機能するのか、世界へ向けてテストされた日でもあった。そしてそれは成功したと言えよう。

 現代的な工夫は他にもあった。その日、スタジアムには2万4800人が入場したが、そのほとんどがスタジアムの公式アプリをダウンロードし、それを使ってトイレを予約し(そのためトイレ待ちの列はゼロ!)、売店で食べ物を注文し、決済した。ちなみにスタジアム最寄りの駐車場を探すのにもこのアプリが役立つ。

 また、スタジアムで販売される食事はすべて地元産。近隣で採れた新鮮な野菜、近場の牧場で生産された肉、最大20km圏内で生産されたビールは100%リサイクル可能なガラス瓶に詰められて販売された。

 結果、スタジアムは消費するエネルギーよりも生産するエネルギーの方が多かった。空気の汚染もない。

 今回のスーパーカップ開催は、UEFAの「大都市だけでなく、サステナブルで先進的な施設なら地方の町にも大舞台が開ける」という強いメッセージでもあった。素晴らしい環境や条件が整えば、たとえ小さな都市でも開催権が与えられるようになるはずだ。

 ウディネを手本としたサステナブルなスタジアムは、今後も増えていくだろう。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
 
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