EURO2004のイングランドの出だしは最悪なものとなった。
 
　グループステージ初戦で前回王者フランスと対戦し、フランク・ランパードのヘッドで先制したまでは良かったが、デイビッド・ベッカムが追加点となるはずのPKを外し、アディショナルタイムでジネディーヌ・ジダンに２ゴールを許して、逆転負けを喫したのだ。
 
　イングランドは優勝候補ではあったものの、国内では、スベン・ゴラン・エリクソン率いるこのチームを「最悪よりはマシ」という程度で見ており、閉塞感に満ちた状況のなか、悪夢のような黒星発進を余儀なくされ、さらに国民はストレスをため込むことになってしまった。
 
　こうして迎えた６月17日の第２節スイス戦。相手は前節にクロアチアと対戦し、途中からは退場で数的不利に立たされるも、スコアレスドローでこれを乗り切っていた。
 
　イングランドは序盤、再三DFラインの裏を突いてくるスイスの攻撃に苦しみ、不用意なファウルで何度もピンチを迎える。攻撃では、相手の統率された守備を崩せないでいた。
 
　しかし、嫌な空気を、ひとつのゴールが一気に吹き払う。23分、先制弾を叩き込んだのは、メジャー大会初登場のウェイン・ルーニーだった。
 
　18歳と232日という、イングランド代表のEUROにおける最年少出場記録を更新した新進気鋭のストライカーは、98年フランス・ワールドカップで最年少出場記録＆得点を記録したマイケル・オーウェンのクロスを、頭でゴールに突き刺し、軽やかな側転で喜びを表現した。
 
　新旧ワンダーボーイによる連係で先制点を奪ったイングランドは、ここから吹っ切れたように良い動きを見せ始める。そして、勢い付いたのはルーニーも同様であり、その思い切りの良さが75分、彼に２点目をもたらした。
 
　ダリウス・ヴァッセルが持ち込んだボールを受けたルーニーは、切り返しからゴールの逆サイドを狙うと見せかけ、ニアサイドに強烈なシュートを打ち込む。ボールはGKとポストをわずかな隙間を抜け、再びゴールネットを揺らした。
 
　その後、イングランドはスティーブン・ジェラードが３点目を奪ってスイスを一蹴。初勝利とともに、失っていた自信も取り戻したのだった。
 
　18歳の少年によって、「迷える獅子」は完全に覚醒。エリクソン監督はこの一戦以降、「攻撃的に行く」と意思を明確にした。
 
　ルーニーは最終節のクロアチア戦でも、その才能を発揮。鋭いミドルで２点目を決め、さらに壁パスから独走してのドリブルシュートによる３点目と、ここでも２ゴールを挙げ、チームの４-２の勝利に大貢献を果たした。
 
　イングランドは２位通過。しかし得失点差では、首位フランスを上回っていた。
 
　こうして臨んだ決勝トーナメント。準々決勝では開催国ポルトガルと対戦し、開始３分で先制するも守り切れず、延長戦、そしてPK戦に突入し、ここで力尽きた。
 
　この戦いについては悔いも残したが、イングランドはルーニーという大きな収穫を得た。ベッカムがPKを何度も失敗するなど、主力に衰えが見えるなかで、18歳の新たな宝石は、イングランドの人々に明るい未来を思い描かせたのだった。
 
　それから12年、30歳になったルーニーは今、中盤のチャンスメーカーとしてタクトを振るっている。そして世界が注目したウェールズ戦では、マーカス・ラッシュフォードが初出場し、18歳と228日でルーニーの最年少記録を更新した。
 
◎６月17日に行なわれた過去のEUROの試合
◇1964年スペイン大会
準決勝
スペイン ２-１ ハンガリー
ソ連 ３-０ デンマーク
 
◇1972年ベルギー大会
３位決定戦
ベルギー ２-１ ハンガリー
 
◇1976年ユーゴスラビア大会
準決勝
西ドイツ ４（延長）２ ユーゴスラビア
 
◇1984年フランス大会
グループステージ
ドイツ ２-１ ルーマニア
ポルトガル １-１ スペイン
 
◇1988年西ドイツ大会
グループステージ
西ドイツ ２-０ スペイン
イタリア ２-０ デンマーク
 
◇1992年スウェーデン大会
グループステージ
スウェーデン ２-１ イングランド
デンマーク ２-１ フランス
 
◇2000年ベルギー・オランダ大会
グループステージ
ポルトガル １-０ ルーマニア
イングランド １-０ ドイツ
 
◇2004年ポルトガル大会
グループステージ
イングランド ３-０ スイス
クロアチア ２-２ フランス
 
◇2008年大会オーストリア・スイス大会
グループステージ
オランダ ２-０ ルーマニア
イタリア ２-０ フランス
 
◇2012年ポーランド・ウクライナ大会
グループステージ
ポルトガル ２-１ オランダ
ドイツ ２-１ デンマーク
 
※日付は全て現地時間