「本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。たくさん試合に出してもらって、このチームにすごく感謝しているので、優勝という形で恩返ししたかった」

　広島がリーグ制覇の可能性を残して迎えたパナソニックスタジアム吹田での最終節・G大阪戦。１－３で敗れたあと、中野就斗は涙を流した。その悔しさも、今後の成長につながっていくに違いない。

　大卒２年目の今季、中野は破竹の勢いを示した。右ウイングバックで開幕スタメンを勝ち取ると、サイドを制圧。プレー強度はルーキーイヤーから大きくアップした。

　飛躍はデータにも表われていたようで、磯部峰一フィジカルコーチは「代表クラスのデータが出ている」と感心していた。

　シーズン途中にはCB荒木隼人が負傷離脱すると、最終ラインに入って対人の強さも発揮した。オ・セフン（町田）やルキアン（湘南）、シャハブ・ザヘディ（福岡）ら屈強な外国人FWと対峙しても競り負けない力強さを見せ、シーズンを折り返す頃には広島に欠かせない選手のひとりとなった。

　22節の神戸戦（●１－３）では大迫勇也とマッチアップし、上には上がいることを知ったが、中野はそれを喜んだ

「大迫選手には得点も奪われて、キープされて失点にもつながった。完全にやられましたけど、戦えて良かったなと。“もっとやらなくちゃ駄目なんだな”と気づかされたので、個人としては良かったです」
【画像】最後の最後まで選手と共に闘い抜いたサンフレッチェ広島サポーター

　ミスをした時も、壁にぶつかった時も、中野は悩んだり、落ち込んだりしない。

「神戸に負けた後もそうでしたけど“まだまだ自分に伸びシロがある”と捉えるようにしています。ミスをしても、自分の力が足りなくても、それを改善してもっと力を付けていけば、上の選手になれるって勝手に思い込むんです」

　このマインドは、“非エリート”だから培われたものだと中野は自覚している。

「自分のことを無名の選手だと思っているので、失うものがない。もしミスをしても“まあ、俺はこの程度でしょ”と思う気持ちと、“それを改善したら、もっと上に行けるでしょ”っていうふたつの気持ちがある。もちろん悔しさもあって、その悔しさがもっとやんなくちゃって思いにもさせてくれるんです」

　最終節を終えて、中野は課題、もとい自身の伸びシロを口にした。

「残り５試合で勝点を積み上げていればタイトルも見えてきたと思います。チームとして甘さがあったと思いますし、個人としてもゴールとアシストの面で結果を出すところや、無失点に抑えるという部分でも、チームに貢献できなかった」

　タイトルを懸けて戦う舞台に立てたから感じられた伸びシロと向き合って臨む来シーズン。中野はどんな成長を遂げていくのか。自らの可能性を信じ続ける限り、成長は無限大に続いていくはずだ。

取材・文●寺田弘幸

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