［J１第29節］福岡０－０鹿島／９月30日／ベスト電器スタジアム

　井手口陽介の代役としてではない。平塚悠知として任された役割を全うする。そんな思いがプレーの一つひとつから伝わってきた。

　アビスパ福岡は９月30日、J１第29節で鹿島アントラーズと対戦し、０－０のドロー。平塚は前寛之とバランスを取りながら、攻撃面では左足の高い技術を駆使してボールを配り、70分にはCKから決定的なシーンを演出。68分、83分には自らもあわやというシュートを放った。

　課題とされている守備面でも、対峙するディエゴ・ピトゥカと互角に渡り合い、鈴木優磨からボールを奪い取ったシーンに代表されるように、強度の高い守備でチームに落ち着きを与えた。

　長谷部茂利監督は「我々のチームは、その試合にスタメンで出た選手がレギュラー。今日は平塚がその仕事を全うしてくれた。十分に仕事をしてくれた」と平塚のプレーぶりを称賛した。

　平塚にとって、今シーズンは難しいシーズンだった。レベルの高いポジション争いに加え、コンディション不良なども重なって、ここまでリーグ戦の出場はわずかに４試合で、出場時間は28分。本人も「うまくいかないことが多かった」と振り返る。

　雁の巣球技場でのトレーニングでも、時折見せていた納得のいかないような表情が思い出される。だが心は折れていなかった。

「自分へのプレッシャーはすごくあった。けれども変に焦れることなく、我慢強く、自分のモチベーションを下げずに、いつチャンスがきても自分の良さが出せるようにというのは、１週間、１週間やってきた」
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　先のことばかりを考えず、目の前のことに全力で取り組む。それは平塚がプロ選手としての歩みを始めた時から貫く姿勢だ。

　札幌大を卒業後に加入した水戸ホーリーホックでは、自分自身に納得のいかないシーズンを過ごし、2021年のオフにはカテゴリーを下げて再挑戦するという話もあった。だが積み重ねてきた努力は嘘をつかない。2022シーズンは開幕からレギュラーポジションを獲得。そして、夏の移籍でアビスパ福岡に移籍して現在に至る。

　そして迎えた2023年J１第29節・鹿島戦。平塚は、今季リーグ戦初スタメンだと感じさせないほど、鹿島相手に堂々と渡り合った。

　意識していたのは「攻撃のところはいい意味で力を抜いてやろうということ。守備のところは課題の一つだったので、しっかり身体を動かして、周りを見て、要所要所で危ないところに顔を出そうということ」。この日の彼のプレーぶりが多くの人たちに強い印象を与えたという事実は、試合後のミックスゾーンで取材に訪れていた報道陣のほとんどに囲まれたのが物語っている。

　だが、本人が感じていたのは悔しさだった。

「もっともっとやらないといけない。今日で言えばゴール前に絡んでいって、シュートシーンもあった。ああいうところで決めていればチームの結果も変わっている。そこは全然まだまだ。こういう世界は結果がすべて。もっともっと自分に矢印を向けてしっかりと準備していきたい」

　この後、リーグ戦は３週間の中断期間に入るが、福岡にとっては天皇杯、ルヴァンカップ準決勝が控えており、今シーズンで最も重要な期間を迎える。しかも１週間で３試合を戦うハードスケジュール。その戦いにアビスパは、これまでと同じように総力戦で挑む。

　もちろん目ざすのは最も高い場所。この日、平塚が感じた悔しさを晴らす時、その舞台が見えてくる。

取材・文●中倉一志（フリーライター）

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