「勝利を目指すべきか、良いプレーを目指すべきか。その類の質問がしばしば飛びます。しかし私が思いますに、ここは一つの断定をするべきでしょう。勝つために良いプレーをする、それのみです。二つのうちの一つを選ぶようなものではありません」

　今年５月、ウルグアイ代表監督に就任することが決まったアルゼンチン人指導者マルセロ・ビエルサは、アスレティック・ビルバオの監督時代に良いプレーと勝つことの選択について問われ、そう答えている。

　なんと、清々しい表現だろうか。目指すべきことを明確に定義している。これは監督の仕事の本質にも通じる。

「勝つために良いプレーを。それを可能にする質の高いトレーニングをする」

　監督の命題はそこに尽きる。

　ちなみに良いプレーというのは、「ボールありき」の能動的なプレーを指す。端的に言えば、自分たちがボールを支配し、相手にプレーさせない。よしんば、相手がボールを持っていても、それを奪うために主体的に行動し、攻撃に結びつける。

「90分間、攻め続ける」

ビエルサ流は極端だが、そういうマインドである。

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　そのために、できるだけスキルの高い選手を集め、それぞれを正しく配置し、コンビネーションを作り上げ、チームとして鍛え、ダイナミズムを生み出す。その精度を日々のトレーニングで高めるのだ。

　つまり試合当日には、ほとんど仕事は終わっている。試合を控えたミーティングでの言葉や当日のマネジメントも大事だが、それはエピローグ。受験前夜から当日といったところか。

　もっとも、良いプレーができる仕組みを鍛え上げ、勝負の中でそれをうまく出せたとしても、試合では呆気なく負けることもある。サッカーは偶然性も伴うスポーツだけに、先天的にその矛盾を抱えている。ただ、良いプレーをすることで攻撃が機能し、得点に結びつく必然性もある。偶然性よりも必然性を信じるしかない。

試合を支配し、チャンスを多く創り出す。それは簡単な作業ではない。膨大で緻密で、我慢強いトレーニングの賜物と言える。
だからこそ、その必然を作り上げたサッカー監督は「大任を果たした」と尊敬されるべき存在になるのだ。

　繰り返すが、勝敗は時の運である。相手次第の面もあるし、コンディションも関係してくる。トレーニングだけで語れない要素は必ず潜んでいる。
しかし良い練習をしていないチームが、良い結果を残せる必然はない。

　ビエルサが言うように、勝つために良いプレーをするには、良いトレーニングが欠かせないのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき／1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL　TEATRO　ラ・リーガ劇場』（いずれも東邦出版）など多数の書籍を出版。2018年３月に『ラストシュート　絆を忘れない』（角川文庫）で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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