１月19日、元日本代表MFの橋本英郎がパナソニックスタジアム吹田で記者会見に臨んだ。25年間で７クラブを渡り歩いたプロキャリアに終止符を打ち、現役を引退すると表明した。

　今後はテレビ解説や社会人チームのアドバイザーを務めるなどして研鑽を積みながら、Ｓ級ライセンスの取得を念頭に入れ、指導者の道を歩むと宣言。「Ｊ１、Ｊ２、Ｊ３のチームを優勝させられる監督になりたい。目ざすのは日本一の指導者です」と意気込みを語った。

　会見では稲本潤一、播戸竜二、加地亮、遠藤保仁の同い年カルテットからサプライズでメッセージが届き、橋本らしい深みのある質疑応答が展開された。キャリアのハイライトと言えば、やはり西野朗体制下にあったＧ大阪の黄金期だろう。橋本、遠藤保仁、二川孝広、そして明神智和が奏でた「黄金の中盤」は今でもサポーターの間で語り草だ。

　報道陣から「黄金の中盤でガンバ最盛期を支えた自負はありますか？」と問われた橋本は、「僕はそんなにないです」と謙遜。「ミョウさん（明神）、ヤット（遠藤）、フタ（二川）と、すごい能力の高い選手が周りにいたからこそ、自分が役に立てたというか、みんなと違うタイプだからこそ生き残れたのかなと思っています。ミョウさんともフタとも似てるようで似ていない、スペシャリティーはそこまでなかったからですね」と続けた。

　そんな橋本は、1999年から2000年にかけて壁にぶち当たっていたとも明かした。当時のＧ大阪強化部長から「器用貧乏だ」と課題を追及され、まさにスペシャリティーの無さに悩んでいたのだ。

　20歳そこそこだった橋本の相談に乗ってくれたのが、当時トップチームでコーチを務め、主に若手の育成に従事していた堀井美晴氏だ。橋本は堀井氏に「お前はなんでもできて平均やけど、抜けたものがないな」とズバリ見抜かれる。そこで堀井氏は、「明神って選手を知ってるか？　彼の何が凄いか分かるか？」と質問してきたという。

　もちろん同じシドニー五輪世代で、若くして柏レイソルで主軸を張っていた明神のことは知っていたが、彼の武器が何かなどは考えてもみなかった。「ぜんぜん分からないです」と答えると、堀井氏は「高さや速さ、強さにシュートの上手さ、攻撃センスとか武器はいろいろあるけど、ひとつ、ポジショニングってのも磨いていけるんやぞ」と助言されたのだ。

　橋本と明神は身長が同じ173センチで体格も似ている。「もちろん身体的な強さはミョウさんのほうが上でしたけど、目ざしてみようってことになったんです」と明かす。さらに、Ｇ大阪ユース時代に薫陶を受けた元日本代表MFの西村昭宏氏からは、「ボランチっていうのはピッチにいるいろんなひとと連携していけるから楽しいんだ。いっぱい考えなアカンけど、だからこそ面白い」と教えられる。
 

　立ち止まっていた橋本に、光明が見えた瞬間だった。まさに頭脳派ボランチへの転換点だ。

「周りの選手の長所をどうやったら活かしていけるかを、すごく考えるようになりました。で、横でプレーしていたのがヤットです。彼がやりやすいプレーは何か、逆にしたくないプレーは何かとかをいつも考えていました。そこからです。黒子役の泥臭いタイプにシフトしていきました」

　西野ガンバで押しも押されもしない中盤の軸となり、2005年シーズンにはクラブ初のＪ１制覇に多大な貢献を果たした。すると翌年、明神が入団を果たし、今度はチームメイトとなるのだ。

「明神さんが来たってことは結局、西野さんからしたらその役割のところは足りていなかったのかもしれませんね」

　少し自虐的に振り返り、笑みを浮かべた。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

PROFILE はしもと・ひでお／1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、AC長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレー。2019年からJFLのFC今治に籍を置き、入団１年目で見事チームをJ3昇格に導く立役者のひとりとなった。2021年５月２日の第７節のテゲバジャーロ宮崎戦で、J3最年長得点（41歳と11か月11日）を記録。2022年は関西１部リーグ「おこしやす京都ＡＣ」に籍を置いた。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場。現役フットボーラーとして奮闘する傍ら、サッカースクールの主宰やヨガチャリティー開催など幅広く活動中だ。Jリーグ通算497試合出場・22得点（うちJ1は339試合出場・19得点）。173センチ・68キロ。血液型Ｏ型。

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