【連載】月刊マスコット批評②「ナツメグ」――ダメはダメなりの存在感

カテゴリ:特集

宇都宮徹壱

2015年08月10日

マスコットは単に大会を盛り上げるだけでなく…

アジアの人々が考えるマスコットは、なかなかに一筋縄ではいかない。多少はヨーロッパ的なものを期待したオーストラリア大会のナツメグも、ご多分に漏れず。写真:宇都宮徹壱

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ナツメグ(AFCアジアカップ2015 オーストラリア大会)
 
■ナツメグの評価(5段階)
 
・愛され度:2.5
・ご当地度:5.0
・パーソナリティ:3.0
・オリジナリティ:3.5
・ストーリー性:2.0
・発展性:2.0
 
 中国は武漢で開催された東アジアカップが終わった。結果については、特に繰り返す必要はないだろう。ピッチの内外でいろいろとストレスのたまる大会だったが、ささくれだった気持ちを癒してくれる存在がいなかったことも大きかった。
 
 そう、この大会にはマスコットがいないのである。そりゃあ2年に一度、10日間足らずで終わってしまう大会で、いちいちマスコットなど作れない事情は理解する。とはいえ、日本、韓国、中国の持ち回りで開催するのだから、それぞれの開催国でマスコットを作ればいいのに、とも思う。もし東アジアサッカー連盟の関係者がこれを読んでいたら、ぜひご検討いただきたい。
 
 さすがにこれがアジアカップとなれば、4年に一度のプレミアム感と、16か国(次回からは24か国)が出場するスケール感を鑑みて、大会マスコットが製作されるようになって久しい。が、アジアの人々が考えるマスコットというのは、どれもこれも「こんなんでいいの? やり直そうよ」と思わずダメ出ししたくなるものが横溢していて、なかなかに一筋縄ではいかないのが実情だ。
 
 今年のオーストラリア大会も、多少はヨーロッパ的な要素を期待していたのだが、さにあらず。オーストラリアもまたAFCに転籍して以降、どっぷりとアジアに浸かっていることが、マスコットのデザインからも明らかになった。
 
 この大会のマスコットは『ナツメグ』といい、モチーフはオーストラリアだけに生息する有袋類である。カンガルーでもコアラでもなく、ウォンバットをモチーフに選んだセンスは評価したい。また有袋類特有の緩慢なアクションと怠惰な風貌もまた、設定としては悪くないと思う。
 
 ただ、表情がどうにもいただけない。そのアンバランスな眉の位置は、あくまで瞬間的に見せる表情であり、それを固定化するのは感情表現という点で大きなマイナスだ。マスコットは(とりわけ3Dにおいて)基本的に表情を変えることはない。むしろ微妙な動作や演技によって、喜びや悲しみや怒りを表現すべきなのだ。
 
 そう、まさに能の世界に通じる奥深さがあってしかるべきなのである。それなのに最初から変顔をしているという時点で、ナツメグの製作者はマスコットのなんたるかをまったく理解していない。
 
 それ以上に問題なのが3Dの作り込みの甘さ。後頭部が雑で人間の首筋らしきものが見えたり、鼻のメッシュの向こう側にオッサンの顔が透けて見えたり、「中の人はいない!」というマスコット界の不文律をまるで理解していない作りになっている。
 
 大会期間中、何度「活だ、活! 出直して来い!」と心のなかで叫び続けたことだろうか。だが不思議なもので、日本代表がベスト8で敗退して以降は、そんなダメダメマスコットのナツメグにも、奇妙な愛着を覚えるようになっていたから不思議である。マスコットは、ただ単に大会を盛り上げるだけでなく、敗者の傷ついた心を慰撫する役割も、実は担っているのだと思う。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/

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