フィリッポ・インザーギが偉大なるカンピオーネ（最高級の選手）だったのは、類まれなる決定力で数々のゴールを決め、タイトルを手にしてきたからだけではない。その人間性にも賛辞が寄せられていた。
 
　それは、現役を退いても変わらない。14-15シーズンはミラン指揮官を務め、昨夏からヴェネツィアを率いる元イタリア代表FWが、困難にあるファンを救おうと一肌脱いだ。父親の切実な願いを知り、病床にある男性のもとへと駆けつけたのだ。
 
　きっかけは、イタリア南部プーリア州の街フォッジャで息子のアンジェロさんを介護するフランコ・リッチョ氏が、インザーギ監督の来訪を願ったことだった。アンジェロさんは神経線維腫という病気に苦しみ、手術を受けた際の併発症によって昨年11月から無動無言症の状態にある。
 
　人工呼吸器を付けたアンジェロさんを介護するフランコ氏は、７月の息子の24歳の誕生日を前に、地元メディアの『フォッジャ・トゥデイ』でこんなメッセージを発した。
 
「息子はアイドルのインザーギと会えば、奇跡が起きるかもしれない」
 
　父親の叫びを伝え聞いたインザーギ監督は、すぐに行動を起こした。すぐにリッチョ家とコンタクトを取り、ヴェネツィアのチームマネジャーと一緒にフォッジャを訪問。地元クラブのフォッジャ・カルチョの会長とともに、アンジェロさんを見舞ったのだ。フランコ氏のメッセージ発信から１週間も経たないうちの出来事だった。
 
　フランコ氏は「アンジェロは話ができないが、すべてを理解したに違いない。モニターを付けているが、ピッポ（インザーギの愛称）を見た瞬間に鼓動が大きくはねたんだ。それに、息子の目で幸せなんだと分かったよ」と、インザーギ監督のサプライズに感激した様子で語った。
 
　インザーギ監督は「バカンス中だったが、ご両親の願いを知って、来ずにはいられなかった。私の訪問で少しでも彼が良くなることを願っている」とコメント。急な訪問だったため、指揮を執るヴェネツィアのユニホームしか用意できなかったが、ミランのユニホームもすぐに送ると約束している。
 
　ヴェネツィアとフォッジャは16-17シーズンのセリエC（３部）で、それぞれグループBとグループCを制覇し、新シーズンのセリエB昇格を決めた。そのためインザーギ監督は「（来シーズンにセリエBで）対戦するときは、また彼に会いに来ると約束する」と、アンジェロさんとの再会を誓った。
 
　インザーギ監督のこの“神対応”には、「彼が再びゴールを決めた」、「素晴らしいハートの持ち主」と、イタリア中のメディアから大きな賛辞が寄せられている。