「そこに至るまでに自分がなにをしてきたかが重要」
加入1年目の昨シーズンは彼にとって相当に厳しいものだった。新チームでレギュラーを掴み、目標としていたリオオリンピックが目前という矢先に、左足を骨折。黙々とリハビリをこなし、ようやく復帰したかと思いきや、再び同じ箇所を骨折した。
「失なうものもあった、悔しさが大きい一年でした。でも、タイトルへの想いはより強くなった。(中村)憲剛さんや(小林)悠くんがカップを掲げる場所を作りたいし、そこに貢献したいと」
五輪の夢を絶たれただけでなく、去年のリーグ優勝争いのほとんどをスタンドから眺め続けた。与えられた試練のなかで、みずからの新たな目標を鮮明にしていったのだ。
ところが今年もまた、奈良選手はまずひとつめのタイトルが懸かった大一番をスタンドから観ることになった。どんな想いでいるのか、少し時間が経ってから話を聞いた時の言葉が、冒頭の「退場になってよかった」だ。
本当に? タイトルに貢献したいと切望していたのに、そんなふうに思えるものなのか?
「もちろん決勝に出られないことは悔しい。だけど、過程のなかでやってきたことに自信を持っている。チームが優勝した時に、その結果に恥じないプロセスをチームと一緒に自分も歩んできた、そこに誇りを持ってるから」
もし適当にやってきてこの現実なら、自分を許せなかった──と、そう話す奈良選手の言葉にうなずきながら、でもわたしならそんなふうに切り替えられないかもしれない、と食い下がってみる。
「切り替えられてるかどうかは分からないですよ。正直、まだあの試合の映像は観れていない。決勝が近づくにつれて悔しくてしょうがなくなるかもしれない」
だけど、と奈良選手。「それはあくまで結果だから。それより、そこに至るまでに自分がなにをしてきたかが重要だと思ってるから」。
ルヴァンカップ決勝までになにをすべか。それまでの試合を勝ち続けるために貢献する。決勝に向けてチームのテンションを下げさせてはいけない。そして、決勝に向けたトレーニングでの振る舞い。自分は出ないから、なんて態度は少しでも出してはいけない──。次の役割に目を向けている。
奈良選手の言葉を聞いて、わたしも誇れるくらいに手を抜かずやってきた、と言えるものが欲しいなと心の底から思った。そうすれば、なにがあっても常に前を向くことができるのだと。
一方で、「悔しい想いから自分は強くなってきた」という奈良選手に、もうこれ以上強くなる試練がやってきませんように、とも祈りながら。
取材・文:高木聖佳(フリーアナウンサー)
───◆───◆───
著者プロフィール
たかぎ・きよか/Jリーグ中継に欠かせないピッチリポーターのひとり。現在は主にDaznで川崎、東京Vなどを担当し、スカパー!ではユース年代の中継も担当する。明るいキャラクターと浪速仕込みの鋭いツッコミに定評があり、選手や監督からの信頼が厚い。過去に「ガンバガール」を務めた異色の経歴を持つ。ご主人は水戸ホーリーホックの西ヶ谷隆之監督。座右の銘は「雲の上はいつも晴れ」。大阪府東大阪市出身。
「失なうものもあった、悔しさが大きい一年でした。でも、タイトルへの想いはより強くなった。(中村)憲剛さんや(小林)悠くんがカップを掲げる場所を作りたいし、そこに貢献したいと」
五輪の夢を絶たれただけでなく、去年のリーグ優勝争いのほとんどをスタンドから眺め続けた。与えられた試練のなかで、みずからの新たな目標を鮮明にしていったのだ。
ところが今年もまた、奈良選手はまずひとつめのタイトルが懸かった大一番をスタンドから観ることになった。どんな想いでいるのか、少し時間が経ってから話を聞いた時の言葉が、冒頭の「退場になってよかった」だ。
本当に? タイトルに貢献したいと切望していたのに、そんなふうに思えるものなのか?
「もちろん決勝に出られないことは悔しい。だけど、過程のなかでやってきたことに自信を持っている。チームが優勝した時に、その結果に恥じないプロセスをチームと一緒に自分も歩んできた、そこに誇りを持ってるから」
もし適当にやってきてこの現実なら、自分を許せなかった──と、そう話す奈良選手の言葉にうなずきながら、でもわたしならそんなふうに切り替えられないかもしれない、と食い下がってみる。
「切り替えられてるかどうかは分からないですよ。正直、まだあの試合の映像は観れていない。決勝が近づくにつれて悔しくてしょうがなくなるかもしれない」
だけど、と奈良選手。「それはあくまで結果だから。それより、そこに至るまでに自分がなにをしてきたかが重要だと思ってるから」。
ルヴァンカップ決勝までになにをすべか。それまでの試合を勝ち続けるために貢献する。決勝に向けてチームのテンションを下げさせてはいけない。そして、決勝に向けたトレーニングでの振る舞い。自分は出ないから、なんて態度は少しでも出してはいけない──。次の役割に目を向けている。
奈良選手の言葉を聞いて、わたしも誇れるくらいに手を抜かずやってきた、と言えるものが欲しいなと心の底から思った。そうすれば、なにがあっても常に前を向くことができるのだと。
一方で、「悔しい想いから自分は強くなってきた」という奈良選手に、もうこれ以上強くなる試練がやってきませんように、とも祈りながら。
取材・文:高木聖佳(フリーアナウンサー)
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著者プロフィール
たかぎ・きよか/Jリーグ中継に欠かせないピッチリポーターのひとり。現在は主にDaznで川崎、東京Vなどを担当し、スカパー!ではユース年代の中継も担当する。明るいキャラクターと浪速仕込みの鋭いツッコミに定評があり、選手や監督からの信頼が厚い。過去に「ガンバガール」を務めた異色の経歴を持つ。ご主人は水戸ホーリーホックの西ヶ谷隆之監督。座右の銘は「雲の上はいつも晴れ」。大阪府東大阪市出身。