自分たちが下した決断が、自分たちの望む結果をもたらしたのだ
僕はふと、メインスタンドの一角に視線を移した。そこには、試合中に何度も周りの人々に立ち上がって応援するように促していたファンがいたのだ。
「みんなの力が必要なんだよ! 立てよ! 叫べよ! もっと応援しようよ!」
ひとり立ち上がって何とか盛り上げようとするが、周りは付き合い程度にちょっと立っては、また座って観戦を続ける。もどかしさにやきもきしながら、「俺だけは!」と彼はあたふたと応援を続けていた。
武藤のシュートが決まった時、本当に全員のファンが立ち上がり、満面の笑顔を見せていた。そんな周りの様子を“あたふたファン”が誇らしげな顔で見つめていたのが、とても印象的で微笑ましかった。
彼だけではないのだ。スタジアムに詰め掛けたマインツのファン全員が、この瞬間のために、それぞれの距離感で、精一杯のエールを送っていたのだろう。
シュレーダーSDは訴え続けてきた。「スタジアムに足を運んでほしい」と。
元監督のユルゲン・クロップは、リバプールから思いを伝えた。
「マインツが、またひとつになることを祈っている」
キャプテンのベルは、時に戒めた。
「ブンデスリーガで勝つことは、当たり前のことではないんだ」
この日、マインツはひとつになれた。
試合後、残留を争うヴォルフスブルクの試合が雹で一時中断になったために、選手も監督・コーチもスタッフも、ピッチ上で携帯片手にうろうろしていた。
ミックスゾーンでは、試合映像を見ながらスタッフのひとりが「もう早送りにしちゃってくれよ!」と叫ぶ。試合終了間際にヴォルフスブルクのマリオ・ゴメスがゴールチャンスを逃すと、ファビアン・フライは両手で顔を覆って深呼吸した。
事実上の残留が決まった瞬間、全てが弾け飛び、宴が始まった。ファンはグラウンドになだれ込み、ビール片手にスタンドに集まった選手とともに残留を祝った。もう誰にも止められない。
「今日は、昨シーズンにEL出場を決めた時よりも大きなパーティーになるよ」
シュミット監督はそう語った。
そんな彼も一時は、解任寸前まで追い込まれた。しかし、シュレーダーSDは指揮官を信じ続けた。不安がなかったわけではないだろう。だが、信念こそが力になるという思いを崩さなかった。
マインツはマインツらしく――。
自分たちが下した決断が、自分たちの望む結果をもたらしたのだ。それだけに、喜びはひとしおだろう。
いつまでも止まないファンの歌声を聞きながら思った。来シーズンもここで、1部リーグが見られることがとても楽しみだ、と。
【ハイライト動画】武藤が極上の輝きを放つ!逆転弾&PK奪取で残留へ獅子奮迅の活躍|マインツ 4-2 フランクフルト
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。
「みんなの力が必要なんだよ! 立てよ! 叫べよ! もっと応援しようよ!」
ひとり立ち上がって何とか盛り上げようとするが、周りは付き合い程度にちょっと立っては、また座って観戦を続ける。もどかしさにやきもきしながら、「俺だけは!」と彼はあたふたと応援を続けていた。
武藤のシュートが決まった時、本当に全員のファンが立ち上がり、満面の笑顔を見せていた。そんな周りの様子を“あたふたファン”が誇らしげな顔で見つめていたのが、とても印象的で微笑ましかった。
彼だけではないのだ。スタジアムに詰め掛けたマインツのファン全員が、この瞬間のために、それぞれの距離感で、精一杯のエールを送っていたのだろう。
シュレーダーSDは訴え続けてきた。「スタジアムに足を運んでほしい」と。
元監督のユルゲン・クロップは、リバプールから思いを伝えた。
「マインツが、またひとつになることを祈っている」
キャプテンのベルは、時に戒めた。
「ブンデスリーガで勝つことは、当たり前のことではないんだ」
この日、マインツはひとつになれた。
試合後、残留を争うヴォルフスブルクの試合が雹で一時中断になったために、選手も監督・コーチもスタッフも、ピッチ上で携帯片手にうろうろしていた。
ミックスゾーンでは、試合映像を見ながらスタッフのひとりが「もう早送りにしちゃってくれよ!」と叫ぶ。試合終了間際にヴォルフスブルクのマリオ・ゴメスがゴールチャンスを逃すと、ファビアン・フライは両手で顔を覆って深呼吸した。
事実上の残留が決まった瞬間、全てが弾け飛び、宴が始まった。ファンはグラウンドになだれ込み、ビール片手にスタンドに集まった選手とともに残留を祝った。もう誰にも止められない。
「今日は、昨シーズンにEL出場を決めた時よりも大きなパーティーになるよ」
シュミット監督はそう語った。
そんな彼も一時は、解任寸前まで追い込まれた。しかし、シュレーダーSDは指揮官を信じ続けた。不安がなかったわけではないだろう。だが、信念こそが力になるという思いを崩さなかった。
マインツはマインツらしく――。
自分たちが下した決断が、自分たちの望む結果をもたらしたのだ。それだけに、喜びはひとしおだろう。
いつまでも止まないファンの歌声を聞きながら思った。来シーズンもここで、1部リーグが見られることがとても楽しみだ、と。
【ハイライト動画】武藤が極上の輝きを放つ!逆転弾&PK奪取で残留へ獅子奮迅の活躍|マインツ 4-2 フランクフルト
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。