多民族の集まるコスモポリタンな風土を反映してか、レスターのスタジアムにはアジア情緒も漂う。ここではタイ人のヴィチャイ・スリバッダナプラバオーナーの意向で時折、東アジアから仏教僧が召喚され、運気を呼び込む儀式が執り行なわれる。
 
　今シーズンも開幕に先駆け僧侶がスタジアムを訪れたが、選手たちも“お清め”の例外ではない。
 
　聖水を浴びせられ、棒で頭を叩かれた成果は、もはや言うまでもないだろう。今シーズン、驚異的な躍進を見せて、プレミアリーグを制覇したのは、神のご加護に違いないと真剣に考えたのは私だけだろうか。
 
　こうした地元の伝統と異文化の風習がうまく融合して、ユニークなクラブ文化が育まれている事実には興をそそられる。そもそも外国人オーナーが、サポーターにこれほどまで支持されているクラブは少ない。
 
　そんなクラブが用意したマッチ・デー・プログラムには、アジアからの新メンバーを温かく迎えるかのように、岡崎慎司の特大ポスターが付いていた。
 
　サンダーランドとのホーム開幕戦でデビューを飾った岡崎は、クラウディオ・ラニエリ監督が「アウトスタンディング!!（傑出していた）」と絶賛するほどの出来だった。
 
　レスターは後半に２失点を喫したものの４-２で快勝し、岡崎自身はファンのハートを鷲掴みした。事実、上機嫌でスタジアムを後にするファンから「シンジはよく走るのがいいね」と声をかけられ、思わずそのまま話し込んでしまった。デビュー戦で評価を高めた岡崎は、以降も前線で守備に奔走し、チームの勝利に貢献し続けた。
 
　初のリーグ制覇を成し遂げた“奇跡”の王者のファンたちは日本人というだけで同志のように親しみを持って接してくれる。彼らは、本当に多様性に寛容なファンたちなのだと実感した。
 
［レスターのクラブの基本情報］
■正式名称……………レスター・シティ・フットボールクラブ
■愛称…………………フォクシーズ（狐）
■創設…………………1884年
■ホームタウン………レスター（32万9600人）
■ホームスタジアム…キング・パワー（32312人収容）
■会長…………………ヴィチャイ・スリバッダナプラバ
■獲得タイトル………リーグカップ３回（63-64、96-97、99-00）プレミアリーグ１回（15-16）
■15-16シーズン成績…プレミアリーグ優勝（22勝11分け３敗）
※情報は2016年５月５日現在
 
取材・文：鈴木祐子
 
【著者プロフィール】
ロンドンを拠点に活躍するジャーナリスト、リポーター、TVディレクター。京都大学卒業後、インペリアル・カレッジ・ロンドンの修士課程に入学し、理学修士号を取得する。ロンドンにあるNHKの制作子会社でTV番組の制作・取材に携わり、2013年にフリーに転身。10年~14年にNHK BSの「ベストスポーツ」、14年からNHKの「ワールドスポーツMLB」のリポーターを務め、同局の中継クルーとして14年W杯も現地取材した。