ネルシーニョ新体制の下、神戸は始動時から守備をベースに戦術を整えてきた。しかし地元でのお披露目となった開幕戦、新指揮官の古巣・柏に（特に前半）翻弄された。
 
　試合前日、指揮官はこれまで主力組でプレーしていた新戦力の高橋祥平とフェフージンのふたりを控え組に回していた。
 
「（開幕戦の）スタートの11人は決まっている。ただ、それはメンバー発表の時に確認してほしい」
 
　蓋を開けてみれば、サブ組で起用されていたDF増川隆洋と清水から加入して１か月しか経っていないブラジル人MFブエノがスタメンに抜擢された。特にボランチで起用されたブエノに関して、「フィジカルで負けず、守備のできる選手を入れ、前線が攻撃に専念できるように」という意味で起用された。
 
　ただし、軽やかなパスワークを繰り出しボールを支配する柏を、前半の神戸はファウルで止めるのがやっとだった。
 
「パスが上手い相手にスペースを与えてしまい、主導権を握られた」（ネルシーニョ監督）なか、渡邉千真、ペドロ・ジュニオールの両サイドアタッカーも守備に追われてしまう。
 
　司令塔の森岡亮太は、茨田陽生と大谷秀和に徹底的につぶされ、ほとんど機能しない。
 
　前半のシュートはゼロ。
 
　対する柏は６本である。その数字を見るだけでも、神戸がなにもできなかったことが分かる。
 
　ネルシーニョ監督は後半開始から、すでに警告を受けていた増川と、「いつものようなプレーができていなかった」と判断した森岡を下げ、高橋祥と小川慶治朗を投入する。
 
「まずは守備でしっかりハードワークすれば攻撃のチャンスが増えるので、運動量を出していこうと思った」という小川の働きもあり、神戸は後半の立ち上がりからリズムを掴み始める。ところが、63分にセットプレー絡みで失点してしまう。
 
　反撃に出たかった攻撃は「全体的に距離感があまり良くなく、（突破で）ファウルをもらうのが精一杯」（石津大介）。すでにACLで３試合を戦っている成熟度の高い柏との差を突きつけられた。
 
　それでも、ネルシーニョ監督は「後半の選手たちは、確かな力があることを見せた」と言った。
 
　怒涛の反撃――後半に見せた巻き返しは、昨季の神戸にはなかったもの。それは、まさに『ネルシーニョ効果』と言えるだろう。
 
「今日の結果は悲観的には捉えていない」と奥井諒も切り替え、前を向いていた。新生・神戸がどのように構築されていくのか――。ここからが名将の腕の見せどころになる。
 
　一方の柏は、「過密日程ではあるが特に誰もそれを意識せず、３試合を戦っていて緊張感にも慣れていたので、試合に入れた」と吉田達磨監督も言っていた。チーム内の意思統一が図られ、特に前半はホームチームを圧倒。
 
「データがないなか、ネルシーニョがどんなことをしてくるかを考えていた。策士で奥の奥まで考えていた。でも、『きっとこうするかも』と、雑談レベルだが、選手とも話をしていた」
 
　昨季まで一緒に戦っていた名将の考えを想定。そのうえで勝利を手繰り寄せ、「手応えを感じる試合ができた」と、吉田監督は選手たちを讃えた。自信となる１勝になったことは間違いない。