アジアカップ2015

【アジアカップ】31歳を迎えたキャプテン長谷部誠の決意と感謝

カテゴリ:日本代表

寺野典子

2015年01月20日

「自分はキャプテンというタイプじゃないと思っている」

大会中に31歳の誕生日を迎えた長谷部。キャプテンとしての試合出場数もヨルダン戦で歴代最多となる。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 1月18日、31歳の誕生日をメルボルンで迎えた長谷部誠は、“周りの人に感謝する日”と話した。そして、1月20日のヨルダン戦では、キャプテンとしての試合出場数が56試合になる。これは日本代表の最多記録。お祝いごとが重なった。
 
「岡田(武史)さんや、ザックさん、そしてアギーレ監督が自分を信頼してくれた。やっぱり周りの人の理解がないとできないこと。周りのチームメイトによって、キャプテンは作られるものかなと感じる部分もあります。自分はキャプテンというタイプじゃないと思っているので。そういう意味ではメディアのみなさんも、多分僕のキャプテン像みたいなものを作ってくれたとも思っています。周りの人に感謝したいですね」と長谷部は語っている。
 
 2010年の南アフリカ・ワールドカップ直前のイングランド戦で、キャプテンを任された。前任者である中澤佑二が快くバトンを渡してくれた。そんな中澤をはじめ、ベテラン選手に支えられて、キャプテンとしての時間が始まった。
 
 11年春に発表された著書「心を整える」は、ミリオンセラーを記録。誠実で真面目なキャラクターで、サッカーファン以外からも注目される存在となった。
 
 先行するパブリックイメージを受け入れ、「日本代表のキャプテンに相応しい振る舞いや行動をしなくちゃいけない」と話すこともあった。自身が立たされた環境や立場を理解し、自分なりに心を砕き、歩いてきた時間が56試合出場という記録に繋がった。
 
「マコはチームメイトにとっても偉大なキャプテンだと思います。2010年からキャプテンになって、一緒に時間を過ごすなかで彼自身、キャプテンとしてすごく成長したのを感じています」
 野球のバッテリーにたとえれば、女房役のような存在として、長谷部を支えていた川島が話す。
 
 4年前のアジアカップ初戦で苦しんだ時、長谷部は急きょ選手ミーティングを催した。その後も選手それぞれの声をくみ取り、チーム内の空気を読みながら、全員がひとつになる方法を模索し続けてきた。
 
「今こうやって、チームがまとまっているのは、良いことだと思います。でも同時に、それが本当に良いのかと思うこともある。もっともっとお互いが厳しくやったほうがいいんじゃないかと。なにが正解か、正直わからなかったりします」
 
「なにが正解かわからない」
 正解がないからこそ、葛藤や迷いが生まれて当然だ。しかし、そんなキャプテンとしての経験は、自身の成長を促す重要な機会だと長谷部はそうも考えているはずだ。
 
 だからこそ、ブラジル・ワールドカップでこう発言したのだろう。「これからは若い選手がキャプテンをやったほうがいいんじゃないか」と。
 
 自分が得た貴重な経験を若い選手にも味わってほしい。その想いは今も消えないと話す。
「日本代表のキャプテンを任せてもらうことは誇りであり、光栄なこと。でも、若い選手がやったほうが良いのかなとはいつも考えているし、それは今も変わらない」
 
 日本代表の未来を考えたとき、快くバトンを渡し、若いキャプテンを支える。長谷部がそういう新しい役割を担う日はきっと来るだろう。 しかし、今はアジアカップ連覇という目標達成のために力を尽くすだけだ。
 
 フランクフルトでも日本代表でも、アンカーという新しいポジションでプレーしている。
「自分のプレースタイルや性格を考えた時に、また新しい自分が見られる。いろんなことに挑戦できるのは、楽しいです。あらゆる部分でまだまだ伸ばせるという感覚もありますから」
 
 浦和入団に始まり、長谷部は常に挑戦することを選択してきた。「選べるなら、あえて難しい道を選ぶ」と以前話していたこともある。試練が自分を磨く。そうやってステップアップしてきた。それはきっとこれからも変わらない。
 
「長谷部選手は生まれながらのリーダーです。彼の声で、彼の経験から来るものを伝えて、チームを落ち着かせることができます」(アギーレ)
 
「ピッチ上でも、ピッチ外でも、チームの状況を一番理解していますし、チームになにが必要なのかを見られるというのが、彼の魅力だと思います」(川島)
 
 ヨルダン戦の前日会見に出席したふたりは、キャプテン長谷部誠をそう評した。
 
 現政権発足から数か月で迎えたアジアカップは、まさに「走りながら考える」大会だ。試合をこなしつつ、課題を修正し、そして勝ち続けなければならない。
 
 2011年の前回大会では、逆境に立たされたチームを立て直し、壁を乗り越えながら、加速度的に勢いをつけて優勝へと駆け抜けた。
 
 2連勝した今大会だが、まだまだチームに勢いがあるとは言えない。監督の八百長問題や制裁金の話題など、ピッチ外でのトピックスも多い。
 
 そんな大会でいかに結果を手にしていくのか。
 
 チームを俯瞰し、問題を察知し、解決策を考えて、そして決断を下し、行動する。小さな違い、ディテールに目を向ける。そして経験のページをめくって、対処法を探し出す。
 
 それはキャプテンとして当然の作業だが、決してルーティンワークになることはない。だから、日々挑戦なのかもしれない。挑む山の高さや種類は違うけれど。
 
「やっぱり年を重ねるごとにいろいろな経験してきた。そして、サッカーをする喜びを非常に感じている。これからも、より喜びを感じられるようにしたい。それは支えてくれる人たちに恩返しをすることだから、そういう意味ではもっともっと成長して活躍するところを見せたい」
 
 31歳の誕生日。報道陣が用意したバースデーケーキのろうそくを吹き消したあと、彼はそう話した。きっとそれは、サッカーを始めた子どもの頃から抱いていた想いに違いない。
 
 それくらいまっすぐで、純粋な言葉だった。
 
取材・文:寺野典子
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