日大藤沢は今大会に入って、対戦相手とは別にインフルエンザという敵とも戦っている。３人が感染し、１回戦からベストメンバーが組めていなかったのだ。その見えない敵と戦っていたひとりがFW今井裕太だ。地区予選ではトップ下のレギュラーとしてプレー。アジリティの高さと、緩急自在のドリブルで攻撃のアクセントとなっていた。
 
　並々ならぬ意欲で大会に向け調整をしていた大会開幕前の12月28日。３年生の今井はインフルエンザB型の予防接種は打っていたのにもかかわらず、インフルエンザA型を発症。「このまま、俺の高校サッカー人生が終わるのかな」と不安を覗かせながら、大会中はベッドの上でチームの勝利を見届けてきた。
 
　そして、迎えた３回戦。順調に回復し、本来であれば今大会初めてベンチ入りメンバーに名を連ねていたはずだった。しかし、今度は「人生で初めて」という扁桃腺の炎症で37度３分の発熱。メンバー表提出10分前に登録を外れることになってしまう。その時の心境を「マジか……」と語り、悔しさを滲ませていた。
 
　そして、体調も戻り、満を持してこの準々決勝からベンチ入り。初めて選手権の舞台に立つ資格を得ると、出番は後半の頭にやって来た。
 
「40分なら今井は行けるだろう。昨日まで一緒にいた仲間が今日も宿舎で熱を出してしまった。これで終われないだろう。点を取ってこい」（日大藤沢・佐藤輝勝監督）
 
　この言葉とは裏腹に、今井はピッチに送り出されたものの、なかなか決定的な仕事ができない。それでも、トップ下のMF田場ディエゴと流動的にポジションを入れ替えながら、相手のゴール前へと侵入。膠着状態を打破するべく奔走した。すると、後半29分に途中出場のFW前田マイケル純がMF西尾秀隼のFKを混戦の中から胸で押し込み、待望の先制点。しかし、粘る静岡学園も同31分にMF本藤風太のゴールで同点に追い付き、試合は振り出しに戻された。
 
　それでも、サッカーの神様はインフルエンザという試練を乗り越えた男に、大きなチャンスを最後に与えた。同点のまま試合終盤に差し掛かり、PK戦も頭に過り始めた同38分。右サイドでボールを持った右SB福屋凌平から中央で構えていた田場にボールが渡ると、ワンタッチでゴール前にラストパス。「調子が良くないのは分かっていたので、ゴールの近くにいようと思っていた」という今井がこのパスに反応すると、GKを冷静に見定めて右足でゴール左隅に流し込んだ。
 
　最後の最後にインフルエンザから帰ってきた男が、チームに勝利をもたらすゴールを決め、日大藤沢はチーム史上初となるベスト４進出を決めた。準決勝まであと４日。万全な状態で挑むべく、チームは最後の調整をする。
 
取材・文：松尾祐希（サッカーライター）
 
■試合の結果
日大藤沢（神奈川） ２-１ 静岡学園（静岡）
得点者／日＝前田（後半29分）、今井（後半38分）
　　　　静＝本藤（後半31分）

【高校選手権Photo】１月５日｜準々決勝