チームのサッカースタイルは毎年、「選手たちが主将を中心に話し合って決める」(松田雄一監督)のだそうだ。全国では個で劣るのを認めなければいけない部分もある。そうした点も踏まえて、選手たちは「堅守速攻」というテーマを掲げ、一体となって取り組んできた。
そして個々の力量では、高校サッカーでもトップクラスにある青森山田を相手に、中津東はその持ち味を遺憾なく発揮してみせた。クローズアップしたいのは青森山田の3トップを封じ込んだマンツーマンディフェンスだ。流動的にポジションを変える青森山田の攻撃に対しても、徹底したマンマークでロックオンした相手を放さず、まさに“粘守”を見せつけた。
とりわけCBの河野史勇太の活躍は目覚ましかった。165センチと小柄ながら、俊敏な動きで相手の起点となる1トップを封じ込んだ。
「相手は身体が強かったけど、自分の特徴である粘り強さを出せた」
スタートからはパワフルなドリブル突破を得意とするFW松木駿之介に食らいついてシュートすら許さず、後半途中からは182センチの大型FW鈴木将馬にターゲットが替わり、果敢に空中戦を挑んだ。鈴木にはロングスローからのヘディングで1点を許したものの、「先に飛んで相手の身体を利用するとか、工夫してやれたと思う」と17センチの身長差も恐れず対峙した。
前回大会ではセットプレーからの1点に泣き、強豪の市立船橋に敗れたが、この日は、その時の経験も活きた。
「去年は石田(雅俊・現京都)選手とマッチアップして、完璧に抑えられたわけじゃないけど、ある程度付いていくことができた。それが自信にもなったし、今年は1年間スピードやテクニックのある相手と試合を重ねてレベルアップを図ってきた」(河野)
残り3分に同点に追いつかれた場面でも、「気持ちの部分で落ちかけたけど、キャプテン(山本隼斗)の声でもう一度前を向いていけたし、最後まで自分たちのスタイルをやり通せた」と、勝利への執念を持ち続け、PK勝ちを手繰り寄せた。
ここ2年の悔しさをバネに、ようやく初戦の壁を突破した中津東。165センチの小柄な“エースキラー”は、その後に続く快進撃の立役者となるかもしれない。
取材・文:長沼敏行(サッカーダイジェストWeb)
■試合の結果
中津東 1(4PK2)1 青森山田
得点者/中=奥(前半33分)
青=鈴木(後半37分)
【高校選手権photo】中津東 1(4PK2)1 青森山田