「昔の仲間に『絶対に上がってこいよ。待ってるからな』と言われていたので、ホッとしています」
 
　プリンスリーグ関西を制した履正社が、参入戦でも２勝し、来季のプレミアリーグ昇格を手にした。２年生主体のチームで、エースナンバーの10番を背負う牧野寛太は、安堵の表情を見せた。
 
　G大阪ジュニアユース出身の牧野は、ユースには昇格できず、履正社高校の門を叩いた。かつての仲間と戦うためには、自らがプレミアリーグに上がらなければならなかった。さらに昨年の東京国体。牧野は準優勝した大阪選抜のナンバー10を背負っていたが、チームメイトには、今季のチャンピオンシップを制したC大阪U-18の選手も多くいた。彼らと同じ舞台に立つためにも、プレミアリーグ昇格は至上命題だった。
 
　１年時から不動の存在となっていた牧野は、今年に入りさらなる成長を遂げた。それまではテクニックが先行していた『巧い選手』だったが、周囲を賢く使い役割を分担しながら、より自分が活きるゴール前で力を発揮できるようになったのだ。
 
「（平野直樹）監督からは『守備をしっかりとするように』と言われています。攻撃だけでなく、守備をしっかりしないといけないので、当然ポジションが下がることもあります。そうなった時、これまでは奪った後にドリブルをして、引っかかることがあったのですが、今はボールを奪ったら、シンプルに周りに預けてから再び自分が関わるようにしています」
 
　参入戦でも彼は献身的なチェイシングでボールを奪うと、まずは川畑隼人と田中駿汰の２シャドーにボールを預け、そこから一気に前に飛び出していった。そして再びボールを受けると、敵陣を切り裂くドリブルやラストパスで、ゴールに迫り続けた。
 
　前橋育英戦の22分、中盤で牧野がボールを受けると、右ワイドの林大地に大きく展開。そこから右サイドを崩して、FW菅原大空の先制弾が生まれた。41分には、菅原が右サイドを突破するのと同時に、素早くゴール前にポジションを取り、グラウンダーの折り返しを、「GKが前に出てきたのと、ボールが少し遅かったので、GKをよく見て、タイミングをずらして打った」と、チップキックでGKの脇を破る技ありゴールを決めた。
 
「あのゴールはさすがだった」と平野監督も感服したように、10番にふさわしいプレーで、存在感を放った。
 
「彼にはもっと守備やハードワークを植え付けたい。いいものを持っているのは間違いない。それだけに気まぐれな選手にはなってほしくない。彼は一生懸命走って、色んな局面で数的有利を作り出す選手にならないといけない。うまいだけの選手に終わらせたくないんです」（平野監督）
 
　高いポテンシャルがあるからこそ、指揮官は彼に絶大の信頼を寄せる一方で、厳しい注文を出し続ける。
「まだまだ自分がプレーに関われていない時間がある。攻守において、関わり続けられるようにならないと上には行けない」
 
　その思いは十分に本人に伝わっている。そして、来年はいよいよ最高学年として、プレミアリーグに臨む。
「やっぱりガンバだけには絶対に負けたくない。相手にとって怖い選手なりたい」
 
　モチベーションは十分。この気概がある限り、牧野は成長の歩みを止めないはずだ。
 
取材・文：安藤隆人（サッカージャーナリスト）
 
プレミアリーグ参入戦（決勝戦）の結果　※勝ったチームが昇格
履正社 ２-０ 前橋育英
得点者／履＝菅原（20分）、牧野（41分）
 
大宮ユース ２-１ 仙台ユース
得点者／大＝藤沼（70分）、小野（77分）　仙＝小林（20分）
 
FC東京U-18 ２-０ 清水桜が丘
得点者／東＝大熊（26分）、蓮川（35分）
 
大分U-18 ３-１ 米子北
得点者／大＝坂井（29分・41分）、佐藤（33分）　米＝定本（90＋２分）