６月15日、ドイツの名門ハンブルクでのシーズンを終えて帰国中の酒井高徳が、３月に刊行した初の自伝『W～ダブル～　- 人とは違う、それでもいい -』の出版記念イベントを開催した。イベント前には開催地の東京・八重洲ブックセンターで囲み取材に応じた。

　トラウマを抱えた幼少期からアルビレックス新潟でのプロ契約に至るまで、ブンデスリーガへの移籍とドイツや日本代表での激闘まですべてを率直に綴った著書を発売するに至った動機を、「自分はハーフということで、幼少期からいろいろと経験してきて、感じることがあった。そういったことも含めて、サッカー選手として、そしてひとりの人間としても何か伝えられることがあるんじゃないかと思った」と語った。

　ロシア・ワールドカップ後に日本代表から退くことを選択し、現在はドイツ２部のハンブルクで主力として活躍している酒井。今季は31試合に出場して貢献し、１部昇格の可能性を高めていたが、シーズン終盤で失速し、昇格は逃している。

　ハンブルクに４年間在籍している酒井だが、現地紙によれば来季は移籍の可能性も否定できないとされ、Ｊ１のヴィッセル神戸が獲得に乗り出しているとの報道もある。

　当の酒井は移籍を含めた自身の行先について、「いろんな可能性を模索したい」と口にした。

「いろんな報道が出ていて（笑）。もちろん、ハンブルクとは契約も残っているので、シーズン準備の際はチームに合流して、最初からトレーニングにも参加するつもりです。ただ、自分にどういう可能性が残っているのか、どんなチャレンジができるのか。クラブとも意見をしっかり交換して、いろんな可能性を遮断したくはないなと思っています。

　僕はドイツリーグしかやったことがないので、他国リーグにも興味はあります。別のリーグに行って、自分がどれだけ成長できるかという楽しみもある」

　そして、Ｊリーグも選択肢のひとつではあると言い切った。

「日本に戻るという選択肢も、無くしたわけではないです。報道されている通り、家族のもとに戻りたいという気持ちがあるのは、確かなので。

　けれど第一希望としては、ヨーロッパで可能性が残っているのかを探っていきたい。もし日本に戻るとしても、その選択は、僕にとって成長できる場所であるからこその決断だと受け止めてもらえたらなと思います」

　また、著書内でドイツでの”弟”とするハンブルクの同僚、伊藤達哉は、トゥーロン国際大会を経て、現在はブラジルでコパ・アメリカに挑むためにブラジルに赴き、森保ジャパンに合流している。

「（伊藤が）トゥーロンに参加することは知っていたんですが、コパ・アメリカに行くことは知らなかったので驚きました。報道で知って、ちょっと厳しめに『前回（代表に）参加してからちょっと遠ざかってしまったので、次は無いと思え』と伝えました。『チームも大事だけれど、自分のアピールも忘れるな。その実力はあると思うから』と。活躍を楽しみにしてます」

　兄貴分からのエールに、伊藤からは「分かりました。頑張ります！」という返事があったという。同大会の森保ジャパンにとっての初戦は、18日のチリ戦となる。

　さらに、先日レアル・マドリーへの移籍が発表された18歳、久保建英についても話が及んだ。いわゆる『海外組』の先輩として何か思うところがあるかという問いかけには、このように返答している。

「やっと、こういう選手が出てきたかと。長い期間、バルセロナでいろんなものを吸収して帰ってきた。その経験がどれだけ大事なのかということを象徴していく選手だと思います。今の状況に繋がったのは、久保選手の実力があってこそですし、海外という環境が日本人選手をどれだけ変えることができるのか、その可能性を示してくれている」

　日本代表の先輩として、サッカーに携わる者として感嘆し、期待もする。それでいて「ものすごいプレッシャーがかかっていると思う」と気遣ったが、「僕が追っている限りでですが、そういったものをパフォーマンスで跳ね返してきた選手ですよね」と頼もしさを感じる久保に、日本サッカーの未来を思い描いているようだ。

「レアル・マドリーという一流の集まる場所で、一流の選手たちや環境に触れ、サッカー選手としてだけでなく、人としても一流になれるんだっていうことを、子供たちや日本のファンに示してもらえたら」

　酒井は現在28歳。来季はドイツでプレーし続けるのか、それとも日本での出場機会を求めるのか。今後の動向に注目が集まる。

取材・文●熊介子（サッカーダイジェストWeb編集部）