【本田密着・第2回】「10番」に対する疑念

カテゴリ:メガクラブ

神尾光臣

2014年03月11日

良いか悪いか、中庸がないミラニスタの評価。

名門クラブの10番を背負う、これが宿命だろう。ファンが罵声を浴びせるのは、ビルサ(中央)のような脇役ではなく、本田だ。 (C) Alberto LINGRIA

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「本田には時間が必要である。(ロシアという)違う国のプロリーグで戦い、しかも遠い国の出身だ。でも必ず良くなると思う。容易ではないが、それでも必ず活躍してくれるだろう。彼は優秀な選手だからね」

 27節ウディネーゼ戦(0-1)でまたも不発に終わった本田圭佑について、アドリアーノ・ガッリアーニ副会長は擁護のコメントを出した。ただ、適応に苦労しているのは、ガッリアーニも、クラレンス・セードルフ監督も否定はしていない。セリエAに活躍の場を求めた外国人選手が苦慮するのは、決して珍しいことではない。守備が厳しくスペースがなく、攻撃の選手は1対1での打開力をまず求められる、そんな環境である。セードルフ監督は、「あのファン・バステンだって1年目は活躍できなかった」と、かつてのレジェンドを引き合いにして理解を求めた。

 はたして、周囲は忍耐強く待ってくれるのか? 現在の雰囲気から判断すれば、それは「ノー」と言うほかない。本拠地サン・シーロでは、本田がボールキープをするたびにブーイングが上がるようになっている。そして前述のアウェーのウディネーゼ戦では、観戦に来ていたミラニスタから、同じ日本人だということで筆者も口汚い罵声を浴びた。

 厳密に言えば、ウディネーゼ戦は本田のミスが原因で試合を落としたわけではない。トップ下で起用されながらロストボールの多かったヴァルテル・ビルサや、アントニオ・ディ・ナターレやシルバン・ヴィドマーに裏を取られまくったフィリップ・メクセスのほうが、よほど戦犯と呼ぶにふさわしい。ただ、そういう問題でもない。みずからも指導者経験を持つミラニスタのジッロさんはこう語る。

「そりゃ、ピッチで“違い”をもたらさなければ、彼のような立場の選手が叩かれるのは仕方がないよ。たしかにパスはセーフティーに繋いでいた。守備もした。だから? チャンスは作ったのか? 残念ながらそういう話になってしまう。ターラブトがすぐにファンの支持を得たのは、1対1に積極的にチャレンジし、しかも結果を出せたからだ。本田は1月途中の加入で、しかもシーズンの真っ只中だから、十分に練習ができず連係が作れないのも分かる。だからこそ、悪条件を跳ね返すパーソナリティーというものを見たかったんだがな。名選手には、それがあるものだし」

 苛烈なメディアの寸評も、その環境の反映というわけである。

「ただちょっと、ファンの反応は過敏だよな」
 そう語ったのは、当サイトでインテルの番記者通信を担当しているサルバトーレ・リッジョ記者だ。せっかくなので、ミランのファン感情がどう見えるのか、ニュートラルな立場で語ってもらった。

「彼らにとっては、スターがチームにいるという現実が当たり前だった。4年前に一度カカを放出(レアル・マドリーへ)してからは常にカカを求めていたし、タレントはそういうものでなければならないという希望がどこかにある。彼らが本田に要求しているパフォーマンスも、そういうレベルだ。ただ正直、ケイスケは不運だ。ロシア・リーグはカレンダーが違う。ほぼ年間を通して戦って、その疲労を抜く暇もなくミランに加入だろ? そりゃ1か月でコンディションを作れと言うほうが難しいよ」

 チームに長く密着し、地元テレビなどで取材するイラリア・マッキ記者は、ミラニスタの気質を含めてこう説明してくれた。

「ミラニスタはもともと、良いか悪いかのどちらかで、中庸を取らないところがあるの。実際、オーナーのベルルスコーニに対しても、経営が上手くいかなくなれば途端に、『クラブを手放せ』ってデモを起こす人たちだから。だから本田に対しても、一気に批判へと針が振れた。ただ、いままで10番をつけたのは、フリットにボバン、サビチェビッチと錚々たる顔ぶれで、その時代をみんな知っている。ボアテング(現シャルケ)を別にすれば、ミランで実績を築く前の選手に簡単に回る番号じゃなかった。それがいきなり10番を手にしたでしょ。『マーケティング目的じゃないか』って疑念をファンが抱いたのは事実よ」

 もっとも、ミラン自体がかつてのミランではなくなったという認識は、ファンの間にもある。
「一時期とは違い、もはや組織的なプレスもなくなったし、ナイトライフのほうが元気なバロテッリをエースにしている時点でもうダメだ」
 と嘆くのは、前述のジッリさんだ。

 リッジョ記者は、そうした状況に放り込まれた本田の境遇を思いやる。
「やはりタイミングが悪かった。いまのミランは間違いなく、ベルルスコーニの時代で最悪のチーム状態だ」

 プレッシャーは、限りなく膨れ上がっている。これを本田は、どう跳ね返していくのだろうか。

――◆――◆――

 2014年1月、本田圭佑が新たなチャレンジを開始した。CSKAモスクワから、世界屈指の
超名門クラブ、ACミランへ――。

「心の中の『リトル本田』に聞いた」との名言とともに、名門クラブの背番号10番を背負った本田。そのロッソネーロ(ミランの愛称で赤と黒の意)の日々を、現地在住のライター、神尾光臣氏が追う。
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