突然の戦線離脱は、今シーズンの柏レイソルに限っていうならば、もはや驚きではない。
４月に攻撃の要であるMFレアンドロ　ドミンゲスがチームを離れ、６月には名古屋グランパスへの移籍が発表された。
 
　彼が不在の春先から先発を重ね、ゴールという結果を残してチームの浮上を牽引してきたMF田中順也が韓国キャンプの終了直前にチームを離れると、数日後にはポルトガルへの移籍が決まった。さらにサンフレッチェ広島、清水エスパルスと大敗を喫し、後半戦スタートとなる18節の川崎戦を控えた８月１日、韓国代表としてブラジル・ワールドカップに参加していたMFハン・グギョンがカタールへと旅立っていった。
 
　前節には、新たな攻撃のオプションとして活躍を期待されていたMF狩野健太が負傷。もともと登録選手27名でスタートしているチームは２種登録の５選手を追加登録してはいるが、厳しい状況は続く。
 
「すべての選手が戦力」と常に公言しているネルシーニョ監督にとっても、メンバー選考とやり繰りに苦労する試合が続いていた。後半戦のリスタートとなった今節、初めて連敗を喫した前節の先発メンバーを４人入れ替えて臨んだ。
 
　とりわけ試合前、サポーターから大きな歓声を受けていたのは、DF藤田優人だ。
 
　昨年ナビスコカップの決勝で、工藤の決勝ゴールをアシストした藤田だが、この試合中に右膝内側側副靭帯を損傷。９日後には、手術を受けることとなった。
 
「手術直後は足も伸ばせず、曲げることもできず、もうサッカーはできないんじゃないかと思った」
 
　そんな苦しい１か月を過ごし、リハビリを重ねての復活。全治８か月の予定から１か月遅れはしたが、チームが苦しい時期に戻ってこれたと喜んだ。
 
「今日ここにいる誰よりもサッカーがしたいと飢えていたし、自分のプレーでチームに喝を入れるんだって決めていました。でもイエローカードは予定外かな」
 
　開始５分に警告を受けたプレーも並々ならぬ決意の表われ。前半終了間際には相手のスキをついて、ボール奪取すると、レアンドロのアシストから生まれた高山の先制ゴールにつなげた。さらに62分、左サイドを崩した橋本のパスを受け、豪快に決勝弾を叩きこんだ。
 
「前半にも１本あったんですが、怪我をした右足でゴールを決めたかった。狙い通りのゴールです」
 
　自身初のJ１ゴールにも冷静そのもの。チームはその後、68分、１点目と同じ流れから高山、70分にもレアンドロが決めて４-１。藤田は80分、大歓声のなか、太田と交代し、ピッチを離れた。
 
「試合勘とかコンディションとかいろいろ言われますけど、自分としては気持ちでカバーできるというのが持論なんです」
 
　この連敗中に一番足りなかった気持ちの強さを前面に押し出せる藤田の復活が、柏に13節以来の勝利を呼び込んだ。

取材・文：平山佳代（フリーライター）