【ブックレビュー】王国ブラジルサッカーの神髄に迫る一冊

カテゴリ:特集

熊崎敬

2014年02月23日

『ジンガ:ブラジリアンフットボールの魅力』

『ジンガ:ブラジリアンフットボールの魅力』は、いわば“王国”ブラジルのサッカーの源流を探る旅だ。(写真はイメージです)(C)Getty Images

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 この世に数多出版されているサッカー関連書籍のなかから、編集部が探してみました。あなたのサッカーライフを、ちょっぴり豊かにするかもしれない一冊を。

 まずピックアップしたのは、2014年のワールドカップを開催する“サッカー王国”ブラジルの神髄に迫るこの本、竹澤哲著『ジンガ:ブラジリアンフットボールの魅力』(プチグランパブリッシング、2006年)

 国内外のサッカーに精通し、ピッチの内外から、さまざまな角度でこのスポーツを切り取る気鋭のライター、熊崎敬氏のレビューでお届けします。

――◆――◆――


 ブラジル人はサッカーを「フチボウ」と呼ぶ。
「サッカー」でも、「フットボール」でも、「カルチョ」でもない、ブラジル人だけが愛でてきた世界。このフチボウを独特のものにしているのが「ジンガ」だ。

 2006年4月半ば、『GINGA the soul of brasilian football』という映画が日本で公開され、話題になった。

 これはブラジル代表のロビーニョをはじめ、さまざまな環境でサッカーに情熱を燃やすブラジル人の男女10人を追った優れたドキュメントだ。ブラジル人の肉体に宿るとされる柔らかく躍動的な動き「ジンガ」を通して、彼ら彼女たちの人生をリアルに描き出している。

 著者の竹澤哲さんは映画の登場人物9人に会いに行き、その人生を通じてブラジルサッカーの魅力に迫ろうとする。彼はロビーニョの恩師を通じて、当時14歳のネイマールにも会った。このときのネイマールは、レアル・マドリーに行くことになっていた(ネイマールは昨年夏にバルセロナと契約)。

 本書に登場する人物は、みんなサッカーが上手い。男も上手ければ、女も上手い。それも恐ろしく上手い。だが19歳のパウロ・セザルのように何十回もテストに落とされ、年齢を重ねていく若者は無数にいる。冒頭に登場するロマリーニョも、チャンスを得るまで22回もテストに落ちた。

 ロビーニョは言う。
「ブラジル人はみんなサッカーが上手いんだ。問題はチャンスに恵まれるかどうかだ。生活のためにサッカーをあきらめる人もいるけど、みんな上手いんだ」

 ロビーニョは自分が天才少年だったからセレソンになれた、レアル・マドリーに行けたとは考えない(ロビーニョは現ミラン)。これがブラジルの層の厚さだ。セレソンの面々は、よくインタビューで「自分より上手いヤツはいた」と語る。彼らは自分が幸運だったから成功したという、謙虚な気持ちを持ち合わせている。

 あのビスマルクがそうだったように、ブラジルの選手たちはピッチ上でしばしば神様に感謝する。この行為も、謙虚さの表われではないだろうか。

 自分より上手いヤツはいくらでもいた。しかし彼らは家計を助けるために仕事に出なければならなかったり、コネがなかったり、道を踏み外したりして、気がつけばナンバーワンではなかった自分だけが生き残った――。

 プロになるだけの力量の持ち主が無数にいて、そのひと摘みがプロになり、さらにそのほんのひと摘みがセレソンになる。本書を読むと、この気の遠くなるようなヒエラルキーが目の前に迫ってくるような思いがする。この途方もない山の高さと裾野の広さこそが、ブラジルの強さなのだ。

 ジンガは、この恐ろしく層が厚いフチボウ独自のリズムである。
「歩く基本はジンガだ。サルバドールの人々はみんなリラックスさせて歩く。何をしようかと考えながらね。あたかも自分が存在しないかのように、敵から身をかわす動きなんだ」
 これは東北地方サルバドールで、格闘技のカポエイラを教えるガリンシャの言葉。
 つまり、ジンガはサッカーの中だけに存在するのではない。ブラジル人(とくにサルバドールの人々)の身体にはジンガが宿っていて、選手たちはそれをプレーに生かしているのだ。

 ブラジルの人々は、ジンガのリズムで身体を揺らしながら街角を歩く。それはどんな災難が降りかかって来ても、軽やかに身をかわすため。身体を揺らしていれば、ひとときであっても人生の苦難を忘れることもできる。

 ジンガは人生を楽しくするための手段。その人生には、もちろんサッカーも含まれる。ジンガがあれば、サッカーの厳しい戦いも乗り越えられる。戦いの中に喜びが生まれ、それは周りの人々へ伝わっていく。

 ジンガを持ったブラジル人。その中で、だれよりもジンガを感じさせるのがロナウジーニョだ。独創的なプレーだけではない。竹澤さんは、ロナウジーニョの微笑みにジンガを見る。

「微笑むことにより、むだな力が抜けてそこからジンガの動きが生まれる。つまりあのロナウジーニョの笑みこそがジンガの神髄といえそうなのである」

 この一文は、わたしの胸にストンと落ちた。
 昨年6月、コンフェデレーションズカップを現地取材したわたしは、毎日が楽しくて仕方なかった。街角の喧騒の中に身を置くのは楽しく、人々は目が合うと微笑んでくれた。わたしはブラジル人のジンガに魅了されていたのだ。

『ジンガ:ブラジリアンフットボールの魅力』
作者:竹澤哲
出版社:プチグラパブリッシング
発売日:2006/06

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