【連載】蹴球百景 vol.19「ロシアに赴く理由」

カテゴリ:連載・コラム

サッカーダイジェスト編集部

2017年06月21日

ある決意を抱えて…。

前回、サンクトペテルブルクを訪れた時の一枚。その時は影も形もなかったクレストフスキー・スタジアムが今大会の決勝の舞台となる。写真:宇都宮徹壱(Saint Petersburg, Russia. 2009)

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 コンフェデレーションズカップが今月の17日、ロシアのサンクトペテルブルクで開幕した。日本代表のワールドカップ予選取材でテヘランから戻ったばかりなので、ロシアとニュージーランドとの開幕戦はTV観戦で済ませることにした。日本が世界に誇る建築家、黒川紀章の遺作となったクレストフスキー・スタジアムは、2009年に現地を訪れた時は影も形もなかったけれど、素晴らしいスポーツの劇場が完成したことに安堵する。決勝の舞台もサンクトペテルブルクなので、その時までのお楽しみとすることにしたい。
 
 今回、コンフェデを取材するにあたり、何人かの同業者から「何しに行くの? 日本代表が出ないのに」と言われた。確かに「仕事」という点でいえば、今回の取材ははっきりいって赤字覚悟である。日本代表が参加しない大会に、日本のメディアはことごとく冷淡だ。4年前のブラジルでのコンフェデと比べると、注目度もかなり薄い。それでもロシアに向かうのは、まずコンフェデという大会ならではの魅力、そして開催国への個人的な思い入れが大きく作用している。
 
 まずはコンフェデという大会について。ワールドカップのプレ大会として、開催国の1年前の状況をリサーチできるのは取材者として非常にありがたい。試合会場はもちろんのこと、スタジアムまでのアクセスやホテル、そして現地での食事や治安も含めてしっかり確認しておこうと思う。一方で、各大陸チャンピオンが集うこの大会は、世界のトレンドを俯瞰できるという利点もある。とりわけアジア王者として参戦するオーストラリアは、次のワールドカップ予選で絶対に倒さなければならない相手だけに、要注目である。
 
 次に、開催国への思い入れについて。私が初めてロシアを訪れたのは2000年。それから二度、現地のフットボール事情を取材してきたが、この17年間でのロシアの環境変化には驚かされるばかりである。ソ連崩壊から10年も経たない頃は、深刻な経済危機が国内リーグを直撃。モスクワのビッグクラブでも、旧態依然としたスタジアムと使い古しの用具が当たり前の状況だった。ところが2009年になると、ロシアはエネルギー大国として目を見張るような発展を遂げ、国内のクラブの多くが金満体質に変貌していた。
 
 この17年間で唯一変わらないことと言えば、国家のトップがウラジミール・プーチンであり続けたことだろう。今大会の開幕戦と決勝戦が、いずれも大統領の出身地であるサンクトペテルブルクで行なわれるのは、決して偶然ではない。ロシアでのワールドカップは、良くも悪くも「プーチンのロシア」が色濃く反映される大会となるはずで、大国ロシアを世界に喧伝する絶好の舞台となることは間違いないだろう。もしかしたらサッカーファンにとって、無邪気に楽しめる大会ではないかもしれない。そうした密やかな危機感も抱きながら、来年のワールドカップ開催国をしっかりウォッチしておこうと決意する次第だ。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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