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“ベンチの億万長者”は救世主か浪費か。アンチェロッティのセレソン改革を巡る賛否【現地発】

カテゴリ:ワールド

リカルド・セティオン

2025年10月27日

ブラジルで快適に過ごすための“特別条項”も

逆転負けを喫した日本戦の戦犯として批判を浴びるアンチェロッティ。王国の救世主になれるのか。 (C)Getty Images

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 あまり知られていない事実だが、カルロ・アンチェロッティは現在、世界で最も高給取りの代表監督である。

 信頼できる筋によると、カルレット(アンチェロッティの愛称)の年俸は約1000万ユーロ近くに達するという。例えば、ポルトガル語圏のあるメディアは「年間およそ1000万ユーロ(+ワールドカップ優勝時ボーナスが500万ユーロ)」と報じている。日本円換算で17億円前後だ。

 ちなみに他の代表監督の年俸は、イングランド代表のトーマス・トゥヘルが590万ユーロ(約10億円)、ドイツ代表のユリアン・ナーゲルスマンが490万ドル(約7億5000万円)、ポルトガル代表のロベルト・マルティネスが400万ドル(約6億円)、フランス代表のディディエ・デシャンが380万ドル(約5億8000万円)と言われている。アンチェロッティの報酬がいかに突出しているかがわかるだろう。

 アンチェロッティの契約は2026年W杯終了まで。だが報酬は年俸だけにとどまらず、予選通過や国際大会での成績に応じてその都度ボーナスが支払われるそうだ。さらにタイトル獲得時にも報奨金が出ることになっていて、肖像権収入などを含めると、給与以外に最大で約16億5000万円を手にする可能性があるという。まさに“王の報酬”だ。平均年収約100万円、失業者が数百万人にのぼる国で……。

 またCBF(ブラジルサッカー連盟)は、給与以外にも多くの費用を負担している。アンチェロッティがブラジルで快適に過ごすための“特別条項”だ。好きな時に使える自分や家族のためのビジネスクラス航空券、丘と海に囲まれたリオ市南部の最高級住宅地に用意された豪邸などだ。その豪邸は、最新鋭の監視システムを備え、出入りはすべて管理され、24時間体制で警備員が常駐している。

 移動する時は専用ドライバーに防弾仕様の高級車、常に2名のボディーガードが同行し、さらにもう1名がこれをサポートする。外出する際は、事前に動線を計算し、行動は極めて慎重に管理されている。ちなみにアンチェロッティはイパネマやコパカバーナのような混雑したレストランには行かず、自宅や限られたプライベート空間での食事を好むようだ。
 
 それだけではない。彼がヨーロッパから呼び寄せたチームスタッフへの給与・旅費・家賃もCBF持ちで、「最高の環境でなければいけない」と唱え、ヨーロッパ式トレーニングのできる施設も整備された。とにかくアンチェロッティには金がかかる。ブラジルの新聞は、こう見出しを打った。“ベンチの億万長者”。

 それでもCBFがアンチェロッティにこれほどのカネをかける理由は、ひとえに長年続いた失望の歴史を断ち切るためだ。W杯での屈辱的な敗退、史上最低の予選成績など、近年の不振は目に余る。そこでCBFは「威信」と「再生」の象徴としてアンチェロッティを選んだのだ。

 彼は“勝者のイメージ”を持つ。スター選手だらけのロッカールームを統率できる監督の象徴でもあった。アンチェロッティ自身もリオに到着してすぐ、「セレソンの運命を変え、再び世界の中心に立たせる」と約束した。

 だが――現実は厳しい。アンチェロッティ体制のブラジル代表は、ここまで6試合で、3勝1分け2敗。日本には歴史上初めての敗北を喫した。それも2-0でリードしていたにもかかわらずの敗戦だった。

 ブラジル国内では、「どうして」「なぜ」「何が起きたのか」と敗れた理由についてまだ論争が続いていて、その最大の戦犯はアンチェロッティというのが多く一致した見解だ。

 韓国戦で“ジョゴ・ボニート”(美しいプレーや試合)を見せたチームから8人のメンバーを入れ替え、これがデビュー戦というGKを起用するなか、それでもその即席チームは日本の堅い守備をこじ開けて2得点を挙げた。

 だが、1点を返されるとアンチェロッティは、動きの良かったブルーノ・ギマランイスやガブリエウ・マルチネッリ、さらにエース格のヴィニシウス・ジュニオールを57分に一気に下げて、流れを変えようと試みる。しかしその交代が奏功せず、ブラジルは迷走し、戦術も秩序も失い、痛恨の逆転負けを喫したのである。

 ブラジルサッカー界は今、二分されている。アンチェロッティにかける費用を「必要な投資」と見る者と「贅沢な無駄遣い」と見る者。さて、答はいかに――。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。
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