「非ポゼッション」から変貌したアトレティコに漂う進撃の予感【コラム】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2025年01月28日

「シメオネのアトレティコは走りすぎるんだよ」

シメオネ監督率いるアトレティコはいまや堅守速攻のチームではない。(C)Getty Images

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 ディエゴ・シメオネ監督が率いたチームはかつて、そうしたごつごつとした言葉で語られることが多かった。

「ポゼッションには意味がない」

 シメオネ自身、そううそぶくところもあった。単純に言えば、スペクタクルの否定だった。

「人生は生死を懸けた闘争である。サッカーも同じだろう。すなわち、戦いの覚悟こそが問われるのだ」

 シメオネは高々に信念を語るが、自らに課した戦いの教えを実践してきた。どうあっても、負けることは許されない。戦闘者としての流儀が、そのまま勝利至上主義のサッカーに息づいていた。

 しかし、なりふり構わない勝利へのアプローチが、一昨シーズン辺りから大きく舵を切った。

 シメオネは「ボールを持つことで自分たちの時間を作らなかったら、結局、戦況が悪くなる」という決定的な事実に行き着いた。そこから、彼はボールプレーを捨てず、むしろ拾い上げ、そうした選手を生かす道(アントワーヌ・グリーズマンの再生やパブロ・バリオスの覚醒など)を模索することになった。一方で固く守り、激しく戦うメンタリティも捨てず、着地点を探し続けてきたのである。

「1日1日、1試合1試合を全力で戦う」

 有名なシメオネイズムは、少しも変わっていない。それに耐えられないような惰弱な選手は切り捨てるが(ポルトガル代表ファンタジスタ、ジョアン・フェリックスとの決別もその一つだろう)、ボールプレーそのものを否定することはなくなった。

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「シメオネのアトレティコは走りすぎるんだよ」

 かつてバルサへ去ったMFアルダ・トゥランが意味深長に語っていたことがあった。自分たちがボールを持っていない、というストレスは、知らず知らずのうちに内部で肥大化していたという。走り勝つことによって、選手たちは勝つ喜びを得ていたはずだった。しかしその回路が停滞するのと同時に、大量の疲労と倦怠感が噴き出していたのである。

 かつて無敵だったチームの力は、次第に減退することになった。

 シメオネは、その事実に目を瞑るほど愚かではない。状況を把握した。感情量が巨大な人物だが、それに流されずに操る術を持っており、思慮は周到で、なにより選手の気持ちを悟るのに敏と言える。

 今シーズン、変わったシメオネが何をつかむことができるのか?

それは現時点で確定していない。しかし確固たる信念を変えず、戦い方を柔軟に変えられる。それこそが、名将の所業と言える。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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