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「足をへし折れ!」無残に骨を折られたマラドーナ。当時のサッカーではヴィニシウスは生き残れなかったはず【コラム】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2025年01月17日

多くの才能が膝や足首をやられてピッチを去った

激しいファウルを受けることが少なくないヴィニシウス(手前)。(C)Getty Images

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 1983年9月、カンプ・ノウでの出来事だ。 

 当時、バルセロナに所属していたアルゼンチン人FWディエゴ・アルマンド・マラドーナは、アスレティック・ビルバオのスペイン人DFアンドニ・ゴイコエチェアのタックルを受け、ピッチに崩れ落ちた。転がって、うずくまって動けない。左足首は折られ、付近の靱帯などは無残に断ち切られていた。 

「足をへし折れ!」 

 比喩ではなく、本気でそういう指令が出されていたという。 

 ゴイコエチェアは背後から猛然と助走をつけ、身長185センチの巨体で飛び込んでいる。スパイクで足首を蹴りつけ、立っていられないほどに破壊した。 

「私は勝利のために戦った選手の行為を誇らしく思う」 

 試合後、アスレティックを率いていたハビエル・クレメンテ監督はそう言って胸を張っている。もちろん、「足を折れ」と命じたことを認めていないが、悪びれた様子もなかった。むしろ、勝利をもたらす行為を正当化した。 

 今では考えられないが、荒っぽい時代だった。マラドーナに対してだけでなく、エースを潰す、というのは文字通り、破壊することだった。多くの才能が、膝や足首をやられてピッチを去っている。 

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  現代では、映像精度が上がったことで、そうした行為は許されない。VAR判定の導入により、悪質な行為には積極的にバツが下される。世間も、そうした行為を決して許さない。 

 時代は変わったのだ。 

 昔だったら、ヴィニシウス・ジュニオールは集中的に削られていただろう。自ら大げさに倒れてアピールし、相手をおちょくるプレーヤーは、荒っぽいディフェンスの的になる。おそらく、生き残ることはできなかったはずだ。 

――あなたは本当にマラドーナの足をへし折るつもりでタックルしたんですか? 

 実は筆者は、マラドーナの足首を破壊したゴイコエチェアに直接、質問をしたことがある。 

「昔の話さ」 

 ゴイコエチェアは鼻を鳴らして言った。 

「ピッチは戦場なんだよ。男同士が限界までやり合う。それだけだ。ケガをさせるつもりなどなかった。自分はひとりの選手として、何も間違ったことはしていない」 

 彼は事実を認めなかったが、悪びれずに言った。今なら炎上する発言かもしれない。もっとも“事件”の当時も、ゴイコエチェアは「犯罪者」「人殺し」「ビルバオの肉切り包丁」と欧州中から吊し上げられたという。本人は「犠牲者も戦犯もいない。サッカーは危険と隣り合わせの戦いだ」という主張を繰り返したが...。 

 真相は、本人にしかわからない。 

 しかし、一つ言えるのはそんな過酷な世界で何度も復活を遂げたマラドーナは、やはりけた外れに恐るべき選手だったということだろう。現代の最強選手たちはその修羅場をくぐり抜けられたか。その答えも誰にも分からない。

文●小宮良之

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