奇跡のメンバー入りとも言えるのかもしれない。

　６月13日に発表された７月開幕の女子ワールドカップ（オーストラリアとニュージーランドで開催）に臨む日本女子代表“なでしこジャパン”のメンバー23人に、サプライズ選出されたのがジェフユナイテッド市原・千葉レディースのFW千葉玲海菜である。

　162センチのFWの武器はスピードと決定力。2022年３月に筑波大を卒業し、正式に千葉Ｌの一員となったストライカーは、秋春制を採用するWEリーグにあって、シーズン半ばの2022年３月５日の12節・三菱重工浦和レッズレディース戦でデビューを果たすと、３月21日の14節・サンフレッチェ広島レジーナ戦から３試合連続ゴールとなる計４得点をマーク。

　同年４月に行なわれたなでしこジャパン候補のトレーニングキャンプに追加招集され、６月の欧州遠征のメンバー入りも果たす。そして６月24日のフィンランド戦で初キャップを刻むと、ゴールを奪う華々しいデビューを演じ、続く７月のＥ－１選手権でも３試合で１得点をマーク。結果的に千葉Ｌでのデビューシーズンでは10試合・６得点という成績で存在感を存分に放ったのだ。

　しかし、新たなスター候補に悲劇が降りかかったのは９月24日のトレーニングゲームだった。本職ではないSBを担った際に守備対応で右膝が悲鳴を上げた。前十字靱帯損傷。全治８か月と診断される重傷だった。

　千葉にとっては選手人生初の大怪我だ。それでも生来のポジティブさを失うことはなかった。

「悔しさはありましたよ。でも、めちゃくちゃショックだったかというと、そうではなくて。何か得られるものはあると信じて、前向きな気持ちでやろうと考えていましたね」

　同時期に負傷していた千葉ＬのキャプテンCB林香奈絵と励まし合いながら過ごしたリハビリ生活。明るい家族の支えもあったという。
 

　その前向きさが彼女の道を改めて照らしたのかもしれない。千葉が再び放った輝きは以前にも増して眩かった。

　予定よりも１か月ほど早く５月３日の16節・日テレ・東京ベレーザ戦で戦列復帰を果たすと、５月13日のノジマステラ相模原戦で２ゴールをマーク。復帰後の６試合で３ゴールと大いにアピールしたのだ。

　当時、リーグ最終盤を迎えて千葉は「もちろんそこを目指していますが、焦らずに、無理をしてもしょうがないので、自分にできることをやって、その結果、ワールドカップのメンバーに選ばれれば、そこで頑張りたいです。何より再断裂しないように気を付けること。まずはそこですね」と焦らないことを強調していた。

　なでしこジャパンは千葉が離脱していた際に欧州遠征を行なうなど、チーム作りとアピール合戦を進めていた。

　それだけに、昨夏以降、日本代表から遠ざかっていた選手にとって逆転でのメンバー入りは、それこそ奇跡を起こすような確率とも言えたのだろう。

　それでも力強く、前向きに大怪我から復帰した彼女の努力があったからこそ、吉報が届いたのかもしれない。

　福島県の出身で2011年の東日本大震災も経験。「津波は大丈夫だったのですが、放射線量の影響で、少し避難もしていた」と話す。

　それでも当時、目にしたなでしこジャパンが世界一に輝く姿は「スポーツの力を実感」し、脳裏に焼き付いている。

　ワールドカップで得点を奪い「“世界の千葉”になれるように」。

　多くの人たちへの感謝の想いを抱え、大舞台へ挑戦する姿を楽しみにしたい。

取材・文●本田健介（サッカーダイジェスト編集部）

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