川崎を支え続けた庄子春男氏の等々力ラストマッチ。涙と感謝で称えられた28年の功績

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2023年03月27日

まさに川崎フロンターレを作った功労者

湘南戦後にはサポーターと記念撮影。等々力には笑顔が広がった。写真:滝川敏之

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 今の川崎フロンターレを作った功労者と言っていいだろう。

 長年、強化担当としてクラブを支え続けた庄子春男氏。誰からも愛された“庄子さん”は3月いっぱいでクラブを離れる。その等々力ラストゲームとなったルヴァンカップの湘南戦(△0-0)が3月26日、幕を閉じた。

 フロンターレに携わって28年。アカデミー出身の脇坂泰斗は涙を我慢できず、小林悠は「お父さんのような存在」としみじみ語り、誰もが感謝を口にする。それほど各選手らと真剣に向き合ってきた人物であった。

 常にチームに寄り添い、トレーニングやミーティングの時間をともにし、各々に必要な時は叱咤激励を、必要な時には温かい励ましを、時と状況に合わせて様々な言葉をかけてきた。

 重視したのは距離感だという。監督、選手、事業スタッフ、サポーターらとの距離感。「近すぎてもダメだし、離れてもダメ。ただ手伝えることは手伝う。お互いに言い合える関係を作る」。関わる人たちに愛情を注いできた。

 鹿島の強化を長年、担った鈴木満氏とは高校の同級生という不思議な縁でもあった。切磋琢磨しながら、互いに信じる道を突き進んできたが、数々のタイトルを獲得し続けた鹿島を横目に、川崎はシルバーコレクターと揶揄される時代が続いた。

 鈴木氏から聞いたのは「一回タイトルを取れば、ふたつ目は早い」という言葉だった。

 潮目が大きく変わったのは2012年の風間八宏監督の招聘だろう。それまでプロチームを率いたことはなく、当時、解説者や筑波大の監督を務めていた風間氏に白羽の矢を立てた。それは運命めいた直感だったという。

 風間氏に依頼した内容も興味深い。

「攻撃サッカーって何か改めて教えてほしい」

 勝負にこだわりながらも、サッカーはエンターテインメントだという信念も決して曲げなかった。

 その誘い文句に風間氏も心惹かれたという。

 エンターテインメント性に富んだ風間サッカーは勝てない時期も短くなかった。それでも方向性は間違っていないと、庄子氏は心中するかのような覚悟で風間体制を支え続けた。

 まさに英断だった。風間フロンターレは徐々に力を付け、さらに技術力を生かした“魅せるサッカー”は日に日に注目度を増す。等々力劇場と呼ばれたホーム戦のチケットはプレミア化するほどの人気を得るようになった。
 
 風間体制最終年となった2016年、チャンピオンシップで惜しくも鹿島に敗れ、2017年元日の天皇杯決勝でも鹿島に勝負強さを見せられた。

 それでも後任には、この男しかいないとの想いで、鬼木達監督をコーチから昇格させる。鬼木監督もトップチームの指揮は初だった。

 この決断も吉と出る。風間サッカーをチューンアップさせた鬼木監督は就任1年目でチームを悲願のJ1制覇へ導くのだ。そこからは鈴木氏の言葉通り、黄金期の到来だった。2021年まで5年連続でタイトルを獲得し、2度のリーグ連覇も果たした。

 鬼木監督に湘南戦後に庄子氏への想いを尋ねると、こう答が返ってくる。

「フロンターレを作り上げてきた方で、やっぱり今日勝って送り出したかったという想いが強いです。その意味では非常に残念ですが、それと同時にここ数年は優勝などを経験してきましたが、チームがよくない時と言いますか、そういう時にいろんな形でサポートをしてくださる方なので、勝っている時は、みんなの力で進めてくれて、苦しい時には先頭に立っていろいろ決断をしてくれました。

 そういう姿はずっと目に焼き付いていますし、言葉も力強さがありました。そういうものをしっかり受け継いでいきたいですし、庄子さんが私たちに退任されるという話をされた時に、本当に勝点1の重みの話をしてくださり、その差で何度も昇格をできなかったなどの経験があったと。だから勝点1もネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに捉えなさいという話をしてくれました。だからこそ、今後もしっかりと勝点にこだわりながらまた突き進んでいきたいです」

 川崎の黄金期の到来は風間氏の就任が大きかったという声も少なくないだろう。事実ではあるのかもしれない。もっとも風間氏本人は否定する。

「今のフロンターレは一朝一夕で築かれたものではない。庄子さんを含め、多くの方の努力と愛情があったからこそ。グラウンド上での選手らのパフォーマンスは評価されて然るべきですが、それと同じくらい大事なのは一貫した強化。だから僕は味付けを少ししただけの印象で、クラブに長年在籍し、“フロンターレのアイデンティティ”を持った人たちが、ブレずに魅力的なサッカーを追い求めてきたからこそ、今の発展があるんです」

 そして風間氏はこうも続ける。

「クラブの方向性を決めるのは監督ではない」

 クラブ強化を担う人たちがどれだけ明確なビジョンを持ち、継続性を持って、指針を定められるか。その重要性はより認識されるべきだろう。だからこそ、川崎とはこういうクラブなんだと、内外に示し続けた庄子氏の功績はやはり非常に大きいのだ。

 その歩んできた道から学ぶべきことも多い。鬼木監督の言葉を借りれば、まさに「フロンターレにとってもレジェンドですが、Jリーグにとってもレジェンド」だ。

 そして功労者の退団を悲しみつつ、後を託された川崎の面々がここからどんな新時代を築くのか、非常に興味深い。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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