昨年、初出場した選手権では、ベスト８進出と躍進を遂げた。当時のスタメンが９人残る今年のチームが弱いはずがない。だが、ふたりの主軸が抜けた新チームは、初めからうまくは回らなかった。
 
　卒業していったボランチの石川玲、主将の松岡拓都の穴は大きく、「石川さんが抜けたことで守備が不安定になったし、ロングボールが減って速攻がなくなった。キャプテンがいなくなり、パスのリズムが出なくなった」（DF安田拡斗）と、昨年の履正社とは別のチームになっていた。
 
　加えて、最終ラインからボールをつなぐ履正社のスタイルは研究され、対戦相手が前線からの守備を徹底。選手も平野直樹監督が日頃から口にする「ボールを大事にするサッカー」を意識するあまり、ショートパス一辺倒となり、「相手は前がかりになっているんだから、裏は空いている。長いパスを通すのも、“ボールを大事にする”ことなのに、細かいパスばかりになってしまい、自陣で奪われての失点が多かった」（平野監督）。プリンスリーグ関西では開幕から４試合白星なし。インターハイ予選でも、初戦となった４回戦の大塚戦で敗れ、姿を消した。
 
　だが、屈辱とも言える春の結果がチームの潜在能力を引き出す良薬となった。インターハイ予選直後に選手同士で話し合い、「『俺たちは全国でベスト８だから勝てるやろ』という奢りもあったけど、このままではダメだと気づいた」（安田）。これまでは走力トレーニングをしてこなかったが、危機感から練習の合間を見つけては選手たちが自主的に走るようになったという。
 
　気持ちの変化が生まれたのは、昨年レギュラーだった９人だけではない。
「昨年は応援席で勝ち進んでいくチームを見守る度に嬉しい気持ちもあったけど、同じく学年の１年生たち（安田、FW牧野寛太、林大地ら）が活躍しているので複雑な思いがあった」
　MF小川達也がこう語るように、昨年は試合に絡めなかった選手たちの努力が実を結び、既存のレギュラー選手たちのポジションを脅かし始めた。
 
「守備を立て直すために、僕が走り回ってルーズボールやセカンドボールを拾おうと意識していた」という小川や、縦への突破力のあるMF角野光志朗、田上翔太は、これまでのスタメンとはまた違った特色を持つ。選手層の厚みは指揮官のベンチワークを多彩にし、状況に応じた選手起用が可能となった。

　インターハイ以降のプリンスリーグは負けなしで首位に浮上。上り調子で迎えた選手権予選でも後方からのパス回しで試合の主導権を握り、機を見た前線へのロングフィードでバリュエーション豊かな攻撃を展開した。
 
　アタッキングゾーンでは牧野、林らを中心とする攻撃陣が個の力を発揮して得点を重ねた。柔剛備えた戦いで奪った得点は５試合で15。失点もわずか１に抑えるなど、昨年を上回る出来に「上手いだけじゃない戦えるチームになってきた」と平野監督も手応えを口にする。
 
　決して楽な一年ではなかったが、苦難があったからこそ逞しさを増した。チームが目指すのは昨年以上の成績。“頂点”を狙えるだけのチームへと成長した履正社が、２年連続の選手権に挑む。
 
大阪府予選 決勝戦短評
履正社 ２-１ 阪南大高
得点者／履＝牧野、角野　阪＝高橋佳
 
　立ち上がりから、ペースは履正社。CB安田、長尾を中心としたボール回しで左右に揺さぶり、タイミング良く前線へロングボールを送る緩急自在の展開を見せる。ゴール前ではFW牧野、林が個の仕掛けで好機を作り、前半20分には牧野の得点で先制した。後半から反撃に打って出た阪南大高に同点弾を許し延長戦に持ち込まれた履正社だが、延長前半７分にMF角野が勝ち越しゴール。そのまま履正社が逃げ切り、２年連続２回目の出場権を手にした。
 
取材・文：森田将義（フリーライター）