「脳はね、進化できる」遠藤保仁が語り明かす流儀、哲学、そして真髄。【独占・全文公開】

2020年07月23日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

だいたい600試合くらいは先発で出てる。これは自分でも誇れるかな。

「サッカーダイジェスト」のロングインタビューに応じてくれた遠藤保仁。写真:徳原隆元

 ヤットは気のおけない、20年来の親友である。「出会ってからず~っと変わらない。とにかくブレないんですよ」という言い回しからも、どこか優しさが滲み出る。
 
 年代別代表でともに切磋琢磨し、ガンバ大阪で共闘するようになってからは、家族ぐるみの付き合いだ。同学年の息子同士が同じチームでサッカーボールを蹴り、奥さん同士も仲が良い。ピッチ内外で、厚い信頼関係を築いてきた。
 
 鉄人、遠藤保仁とはいったい何者なのか。現在ガンバでヘッドコーチを務める山口智に訊くのが、やはり手っ取り早いだろう。

 盟友は偉業達成を目前に控えた40歳MFの素顔を、次のように明かしてくれた。

「マイペースで淡々としている。それもヤットの正しいイメージかもしれないけど、もともと負けず嫌いで、やられたらやり返す、勝負にこだわる熱いものが根底にあるんですよ。サッカーのために準備するんじゃなく、ヤットの場合は日頃の自然の生活がひとつのサイクルになっていて、すべてがつながっている。それが試合でピタっとハマって、また同じサイクルを繰り返すなかで、どんどん確立されていったんだと思う。試合に出続けて、怪我もしない身体になっていってね。

 周りから見たらそれは『努力』になるんだけど、本人にしてみれば、ごく自然の『普通』のことだったんじゃないですかね」

 そしてひとつ年上の元日本代表DFは、「自分のなかでのベストを探すのが抜群に上手いんですよ。そのベストを信じてるから迷いがない」と讃える。「これだけのことをやってきたのだから、驕っても勘違いしてもいいはずやけど、絶対にしない。そこがヤットの魅力なんですよ」とさらに持ち上げ、笑みを浮かべた。

 J1リーグ最多出場の新記録となる632試合出場まで、あとひとつのタイミングで話を聞いた。

 しかしながら当の本人は、なんともあっけらかんとしていた。

 
◇       ◇       ◇

「正直言うとあんまり、特別な感情はないかな。気づいたらここまで来た、って感じかもしれない」

 2月23日に行なわれた今季J1リーグ開幕戦、横浜F・マリノス戦で先発出場を飾った。21年連続での開幕スタメンは前人未到の記録で、楢崎正剛が持っていたJ1最多出場記録である「631」に並んだ。

 ヤットはこの数字に到達するまでの間、むしろ「あらためてどんだけすごい人たちがいたのかを実感した」という。そして「セイゴウ(楢崎)さんのほうがよっぽどすごい」と絶賛するのだ。

「自分で自分がすごいとは思わない。当の本人やからね(笑)。20年くらいやってないと超えられない記録やから、それは自分でもようやってるな、長くやってるなとは思うけど。

 やっぱり思うのは、セイゴウさんすごいなってところ。ここに到達するまでの1、2年間、すごく感じてきた。やっぱり年を取れば取るほど試合に出るのが難しくなるし、ひとつ間違ったらガタガタって崩れるからね。俺に言わせたら、フィールドもキーパーもないやろって思う。むしろキーパーのほうが大変でしょ。1枠しかないから。俺らは逃げ道が2、3個あるし、途中からでも出れるけど、キーパーはそうはいかない。(J1通算593試合の)ユウジ(中澤佑二)にしてもすごい。逆に周りのすごさを実感しながら、ここまで到達したって感じかな」

 褒め称えるなら、むしろ別のデータにしてほしいと切望する。このあたりがいかにもヤットらしい。

「631試合中、だいたい600試合くらいは先発で出てるんじゃないかな(編集部・注/2020年7月22日時点で606試合)。これは自慢じゃないけど、自分でも誇れる数字やし、なかなかできないものやと思う。あとは去年、全公式戦で1000試合出場を達成した(編集部・注/2020年7月22日時点で1019試合)。こっちのほうがよっぽどの記録やと思うんやけど、扱いは小さい(笑)」

次ページ代表でもがいてるとか、トップだからこその話でしょ。幸せだなぁってつくづく思う。

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