【川崎】中村憲剛が宇宙と生交信する理由。川崎が仕掛けるスポーツによる幸せ作りとは?

2016年08月13日 手嶋真彦

国際宇宙ステーションとスタジアムの生交信は世界初。

8月6日の甲府戦では、漫画『宇宙兄弟』の作者・小山宙哉が特別にデザインした〝宇宙服ユニホーム〞を着用した。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 ロシアの宇宙船ソユーズは、無事に飛んでいるだろうか?
 
 川崎フロンターレのプロモーション部部長、天野春果は気が気でなかった。打ち上げられたソユーズに、日本人の大西卓哉宇宙飛行士が搭乗していたからだ。
 
 国際宇宙ステーション(ISS)と川崎フロンターレのホームスタジアムを結ぶ、2016年8月16日の生交信が近づいていた。大西宇宙飛行士のISS到着が遅れると、生交信の実現が危うくなる。何事もなく、予定どおりに到着するはず。天野は自分にそう言い聞かせながら、やはり無事を祈らずにはいられなかった。
 
 天野が準備を進めてきたスタジアムでISSと生交信というのは、日本はおろか世界でも前例のないイベントだ。最初の着想から足掛け5年――。何の伝手もないゼロから企画実現の方法を探り、アメリカ合衆国のNASA(航空宇宙局)との交渉が可能となってからも、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)とともに調整していく作業は「一筋縄では行かなかった」(天野)。
 
 精神的に激しく打ちのめされたのは、宇宙飛行士の週休2日制により、週末のJリーグに合わせた生交信イベントの開催が不可能だと判明した時だ。なんとか例外を作れないものか、いろいろ模索はしてみたものの、確認できたのは次の結論だった。
 
「宇宙飛行士の土日休みは、オバマ大統領でも動かせません」
 
 天野は頭を切り替えた。イベントは2日に分けて開催する。初日はJリーグのヴァンフォーレ甲府戦がある8月6日(土)に、宇宙と交信する2日目は、NASAとの交渉の末、10日後の8月16日(火)に決定した。
 
 素朴な疑問は天野の耳にも届いている。サッカークラブがどうして宇宙の企画を? しかも、試合のない平日の夜に、収益には直結しない入場料無料のイベント―一部に有料のグッズ販売やアトラクションもあるとはいえ―を、わざわざ開催する理由はどこにあるのか?
 
「みんなから不思議がられますよ」
 
 準備のための道のりが平坦でなく、時には曲がりくねっていたのは、ISSとの生交信だけではない。盛りだくさんの企画は2日間の合計で30種類以上。その中には、天体望遠鏡のトップメーカー『Vixen(ビクセン)』とのコラボ双眼鏡販売があり、特殊な器具をスタジアムまで運んでくる無重力体験ブースがあり、室内練習場を利用したウォークスルー型のプラネタリウムもある。

次ページ住民2万7000人の町で6万人のスタンドが満席に。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事