【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の八十一「ストライカーの価値を見誤ってはいないか?」

2016年07月28日 小宮良之

どのタイミングでボールを呼び込み、ネットに飛ばすか――。

どのポジションにもスペシャリストがいるチームは強いはずだが、こと“一番の点取り屋”に関しては、その起用を躊躇する指揮官が少なくない。 写真:滝川 敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 日本サッカー界に、ストライカーは現われない……。
 
 久しく根付いたストライカー待望論は、もはや失望に変わりつつある。
 
 しかし、本当にストライカーは現われていないのか?
 
 なるほど、中盤やSBは、欧州で活躍を遂げた選手が豊富にいる。長谷部誠、香川真司、本田圭佑、内田篤人、長友佑都らは、後進である清武弘嗣、乾貴士、酒井宏樹、酒井高徳らの道を切り拓いた。他にも、南野拓実、原口元気、太田宏介などが続きつつある。
 
 ストライカーの勢力は、それに比べれば小さい。
 
 しかし現在、ストライカーも、プレミアリーグで優勝を遂げた岡崎慎司(レスター)やブンデスリーガの武藤嘉紀(マインツ)などが台頭しつつある。ハーフナー・マイクは、オランダのリーグで17得点とゴールランキング上位に食い込んだ。
 
 異色なポジションではあるのだろうが、「日本人に向かない」と諦めるべきではないだろう。
 
 だいたいにおいて、「ストライカー不在」は誤った見解なのではないか。「日本サッカーを取り巻く社会が、ストライカーを見えなくしている」という仮説は成り立たないか?
 
「ストライカーは育てられない、生まれるもの」
 
 欧州や南米には、そんな言い回しがある。性格や性向が、その力量を左右する。死に物狂いの思いが錯綜するゴール前で仕上げの働きをするには、非情とも言える落ち着きが求められる。
 
「武運は指呼の間にあり」と兵法ではいわれるが、ストライカーは刹那の勝負に挑む。ことに及んで失敗を恐れたり、相手を敬い過ぎたり、怯んでしまう人間には向かない。一瞬でも刀を振り下ろすのを躊躇い、引き金を引くのを逡巡する者には請け負えない仕事だ。
 
 ゴールする――。それはひとつの才能だろう。どのタイミングでボールを呼び込み、ネットに飛ばすか。単純な技量が、本来はストライカーの基本的価値基準なのだろう。
 
 ところがモダンサッカーでは、ストライカーはゴール以外にも幾つもの仕事を託される。ポストワーク、プレッシング、カバーリング、サイドに流れてのフリーランニング……。集団戦術のなかでゴールに集中することは難しい。
 
 例えば、サイドへと流れてポジションを動かしていた場合、得点するポジションを取れない。チェイシングで体力を消耗した場合、一歩が追いつかないこともあり得る。

次ページ象徴的な事例は、大久保や豊田ではなく、興梠が選ばれること。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事