大怪我を経て“5年目”を迎えた桐蔭横浜大CB鍋田純志。サッカーに全てを捧げ『新しい自分』を見つける1年に

2022年07月16日 安藤隆人

プロ入り直前の右膝前十字靭帯断裂でイップスに

5年目の背番号は30になった。写真:安藤隆人

 関東大学サッカーの強豪・桐蔭横浜大。その中で昨年はキャプテンマークを巻き、4番を背負っていたCB鍋田純志は今年、30番を背負ってピッチに立っている。

「覚悟を持ってプレーしています」

 鋭い顔つきでこう口にしたのには理由がある。昨年、鍋田は4年生だった。3年の時から不動のレギュラーとしてプレーし、最上級生となってキャプテンに任命された。目標であったプロ入りに向けて、桐蔭横浜大での有終の美を飾るべく、迎えた新シーズンに大きなアクシデントが襲い掛かった。

 昨年2月、鍋田はカターレ富山のキャンプに参加していた。そして最初のトレーニングマッチとなったカマタマーレ讃岐戦に出場すると、ボールを奪おうと伸ばした足に相手が引っかかると、バランスを崩した相手の身体ごと彼の右膝にのし掛かった。

「グリッ」。鈍い音が膝からした。軽い怪我ではないことはすぐに分かった。病院で診察を受けると、右膝前十字靭帯断裂。全治半年の大怪我を負い、3月には手術を行なった。

「プロになるために具体的に動き出した時だったので、本当にショックだった」

 最高のアピールの場になるはずだったデンソーカップチャレンジ熊谷大会も出場できず、リーグ開幕もスタンドから見守った。プロ入りへの道のりが一気に険しくなっていく焦りと、キャプテンとしてチームの先頭に立たないといけないはずの自分が、全く貢献できない歯痒さ。様々な思いが渦巻いたが、それでも復帰に向けて、自分を信じて必死にリハビリに励んだ。
 
 そして10月、ついに鍋田はピッチに戻ってきた。彼に絶大な信頼を寄せる安武亨監督はすぐにCBとして試合に起用し、昨年1年間で急成長を遂げた中野就斗(サンフレッチェ広島内定)とコンビを組ませた。

 ここからプロに向けての巻き返しと、これまでチームを引っ張ってくれた仲間たちへの恩返しをしようと鍋田のモチベーションは高かった。

 しかし、何かがおかしい。

 得意としていたヘディングで競り勝てないシーンが多く、かつ鋭い寄せからのボール奪取も思うように発揮できない。

「3年生の時に自分が当たり前にやっていたプレーが全然分からない。自分であるはずなのに、自分じゃない感覚だった」

 よくアスリートでは大怪我を負った後に、精神的にも肉体的にも怪我をする前の自分のプレーができない、感覚が戻らないという症状に陥る。いわゆるイップスと呼ばれるものだ。鍋田も例外ではなかった。

「7か月もサッカーができないことが初めての経験でしたし、前十字靭帯断裂は膝の腱が修復するのではなく、他の箇所の腱を切り取って繋げて修復する形なので、自分の膝ではないというか、人工の膝のような感覚が全体に違和感を与えていたんです。それに加えて、復帰してすぐの再発が多いと聞いていたので、再発への恐怖が先立って思い切りプレーできない自分がいた。『できていたはずなのに、できなくなった』というショックが大きかった」
 

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