「天才」と言われた弟は高卒でJ1リーガーに… 兄はいかにして邪な嫉妬心から解放されJ1内定を掴めたのか?

2021年09月25日 安藤隆人

弟は現在J2山口でレギュラー。立正大MF田中宏武が明かした想い「僕のサッカー人生で、他者と比べてきたのはほとんど弟でした」

来季の札幌加入内定を掴んだ立正大のMF田中宏武(左)と弟の渉(右)。兄の宏武はスピードを武器に縦への仕掛けで勝負。弟の渉は高卒でJ1仙台入りし、今季は期限付き移籍で山口へ。写真:安藤隆人

 常に彼のサッカー人生には弟の存在が大きく影響を与えていた――。

 来季、北海道コンサドーレ札幌に加入が内定している立正大MF田中宏武には、1学年下に弟がいる。弟の名前は渉。現在、レノファ山口FCでスタメンを張る現役のJリーガーだ。

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「高校時代、弟は『天才』と言われて、左利きでテクニックもあって、本当に自分にないものを持っている凄い選手だった。高卒でベガルタ仙台に入って、本当に凄いなと思ったし、負けていられないなと思わせてくれる存在です。今も追いついたとは思っていません」。

 宏武は渉のことをこう口にしたが、この言葉が素直に言えるまで正直時間がかかったのは事実であった。

 群馬県で生まれ育った2人は、同じタイミングでサッカーを始めた。宏武3年生、渉2年生。スタートは同じはずなのに、右利きの自分に対して、左利きの渉は周りから重宝されているように見えた。そして学年が上がってくるにつれて、プレースタイルの違いも感じるようになった。視野が広く、正確なパスを駆使したゲームメイクに長けた弟と、スピードを武器に縦に仕掛けていく自分。

 だが、彼の中ではその違いがそれぞれの武器と認識する前に、羨ましい気持ちが先に出ていた。だがそれは無理もない話。キャリアも同じ、1歳しか違わない弟に対して、冷静に比較できるわけがない。

「一緒に始めた分、同じ成長度合いのはずだと思っていました。…でも弟の方が評価をされることが多くて、それを僕としては常に認めずにやってきた」

 負けたくない。弟の評価の方が高いということは薄々感じている。でも、認めたくない。

「僕のサッカー人生で、他者と比べてきたのはほとんど弟でした。自分と同じポジションの選手が活躍しているかどうかよりも、弟が試合に出ているかどうかの方が重要で気にしていました」

 弟よりも点を取りたい。弟よりも相手を抜きたい。弟よりも…。FC尾島ジュニア、前橋SCジュニアユース、そして桐生第一高と同じルートを辿っていく中で、この気持ちが彼の中で焦りと葛藤をもたらしていた。伸び伸びとプレーする弟に対し、兄は気持ちに余裕が持てない時もあった。
 

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