颯爽と相手を抜き去る様が…。三笘薫は“進化後の流川くん”だ【編集長コラム】

2021年06月03日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

パスという布石があってこそのドリブル

川崎で異彩を放つ三笘。決してドリブルだけのアタッカーではない。写真:徳原隆元

 こんなコラムを書いたら、もしかすると本人に怒られるかもしれない。それでも、あえて主張したい。サッカーとバスケットボールの違いはあるが、三笘薫が颯爽と相手を抜き去る様はどことなく「流川楓」に似ている、と。

 流川楓とは、言わずと知れた『スラムダンク』のメインキャラクターのひとり。オフェンスの鬼と言われ、ドリブルでガンガン仕掛けるプレーが信条の選手だ。「そんなバスケットマンと三笘をなぜ重ねる?」と川崎フロンターレのサポーターのみならず、他のサッカーファンからも突っ込まれそうだが、「三笘=流川」とする理由はもちろんある。

 2014年の年末、当時シャルケの一員だった内田篤人に「もっとも厄介なタイプのアタッカーは?」とインタビュー取材の席で訊いたことがある。そこで間髪を入れず返ってきた答が「進化後の流川くん」だった。なぜ「進化後」なのか。それを理解してもらうには『スラムダンク』のストーリーに少し触れる必要がある。

 湘北高バスケットボール部の1年でエースの流川がある時、陵南高のエースでライバルの仙道彰に1ON1の勝負を挑む。その勝負のあと、仙道から「お前は試合の時も1対1の時もプレーが同じだな」「お前はその才能を生かしきれてねえ」「1対1もオフェンスの選択肢の一つにすぎねぇ。それがわからねぇうちは、おめーには負ける気がしねぇ──」とアドバイスらしきものをもらった流川は、のちに"パスという布石があってこそドリブルが活きる"という点に気づく。こうして自己中心的なプレーヤーから、パスもドリブルも使いこなす厄介なフォワードに変貌を遂げたのが、内田が言う「進化後の流川くん」なのだ。
 
 そんな「進化後の流川くん」を、改めて漫画で見てみると、やはり三笘とかぶる。髪型だけではない。状況判断に優れたプレーそのものが三笘のそれを彷彿とさせるのだ。

 今季、個人的に印象的だったのは川崎がFC東京を4-2で下した多摩川クラシコでの三笘のプレー。17分にレアンドロ・ダミアンへのシンプルな縦パスでゴールのきっかけを作ると、29分、その縦パスを入れたほぼ同じ位置から今度はドリブルでシュートまで持ち込む。パスとドリブルの使い分けの上手さがまさに「進化後の流川くん」であり、この試合では勝利を引き寄せるチームの3点目も決めた。クラシコという注目の舞台できっちりと活躍するあたりは、エンターテイナーとも言えるだろう。

 実際、三笘のプレーには華があり、ワクワク感もある。ボールを持つだけで「今度は何をやってくれるのだろう?」と期待感を抱かせるアタッカーは今季のJリーグで稀な存在で、対戦相手のサポーターでさえ今の三笘のパフォーマンスには見惚れてしまうのではないか。
 

次ページJの枠に収まらないタレントになりつつある

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