【湘南×神戸│選手が語る攻防の舞台裏】「進化形3-4-2-1」が激突し合った、隠れた好ゲーム

2015年05月07日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

革新的だった神戸の「パワー」を押し出したスタイル。

マッチアップを繰り広げる菊池とフェフージン。湘南の「スピード」、神戸の「パワー」を象徴する存在だった。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 10節の隠れた好ゲームに挙げたい。湘南-神戸戦は、同じ3-4-2-1の布陣がぶつかり合う、いわゆる「ミラーゲーム」だった。本来は機動力や運動量を活かして、5バックにも、5トップにも、4バックにもなって攻守両面で数的優位な状況を作り、敵陣にできたスペース(ギャップ)を突くのが、このシステムの狙いである。
 
 湘南は4年目の曺監督の下、「相手に考える時間を与えない『ノータイムフットボール』」を掲げて取り組み、素早い切り替えを徹底。縦に鋭くえぐる「スピード」を重視し、独自のスタイルを培ってきた。
 
 一方、神戸のネルシーニョ監督はその布陣の軸に「パワー」を据えてきたのだ。
 
 日本での3-4-2-1の代表格と言えば、ペトロヴィッチ監督(現浦和)が高さや強さのあるCBやボランチを配置する4バックの布陣を攻略するため、広島時代に採用したものが挙げられる。来日直後は3-5-2を用いていたが、日本人には中盤の攻撃的なタレントが多いこと、俊敏性が特性であることなどから、3-4-2-1になり固定化されていった。すなわち3-4-2-1は、日本人のパワー不足を、特長の走力や機動力で補う意味もあった。
 
 ところが、この日の神戸はチョン・ウヨンとフェフージンと身体能力の高いふたりをボランチに並べ、さらにCFに渡邉、シャドーにマルキーニョスを配置。そこに小川や相馬のスピードを絶妙に絡めてきた。ネルシーニョ監督はあえて3-4-2-1の特性であり湘南のスタイルを把握したうえで、パワーを前面に出して相手の弱点を突く――という選択をしてきたのだ。
 
 決して怪我人が相次ぐなかでの苦肉の策ではなく、最近の練習ではパワー系の筋力アップを図るトレーニングを増やしていると聞く。なによりこれまでも大柄な選手を並べる3-4-2-1を採用してきたチームは数多くあったが、ネルシーニョ監督は、機動力、運動量、スピードというこの布陣で求められる肝の部分を活かしつつ、パワーを軸に据えてきたのである。だからこそ、革新的にさえ映った。
 
 しかも前半、その戦術が見事にハマった。
 
 立ち上がりから神戸が主導権を握る。強さと高さのあるセンターラインが、湘南の連係を力で寸断。渡邉やマルキーニョスが確実にボールを収めて起点となり、スピードスターの小川がボールを持てば積極的に仕掛けるという「力」と「技」を組み合わせ、攻撃面でも主導権を握った。
 
「あまり戦術的なことなので言えないが……」
 
 曺監督は試合後にそう前置きしたうえで、前半の「神戸対策」について次のように語っていた。

次ページ神戸が一方的に攻めていた流れが、A・バイアのワンプレーで変わる。

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