「ヴェンゲルが嫌った」“デラップ砲”も根付いてはいない。英国人記者が読み解くロングスローの意義【現地発】

2021年01月12日 スティーブ・マッケンジー

博識高い名伯楽は対策に毎回2日間を要した

かつてストークでロングスローの名手として名を馳せたデラップ。現在は同クラブのアシスタントコーチを務めている。 (C) Getty Images

 私が「ロングスロー」というものを初めて目にしたのは12歳の時。当時、アメリカからはるばる遠征に来ていたチームと対戦した際のことだった。

 こちらのコーナーフラッグ付近でスローインを得た相手選手が、突然、5メートル近い助走を取り始め、ゴール前にめいっぱいの力でボールを投げ込んできたのだ。正直に言って、「一体なんだ」と思ったが、呆然とボールを追ってしまった我々はそれを押し込まれて失点。結局、1-0で敗れてしまった。

 当時、私を指導してくれていたコーチは「あれも立派な戦術だ」と教えてくれたが、「スローインは保持するもの」だという固定概念があった私たちは、ただただ愕然としていたことを記憶している。

 幼い私を驚かせたロングスローが、日本で論争を起こしていると聞いた。高校生のチームが戦術の一つにスローインを組み込んで、得点を量産し、大会を勝ち進んでいるという。

 私の住む『フットボールの母国』イングランドで、ロングスローについて尋ねれば、大半のファンは、「ストーク」か「ローリー・デラップ」と口にする。その理由は、日本のファンもご存じだろうが、彼らが巷を賑わせているという日本の高校生チームと同様にロングスローを磨き、プレミアリーグの檜舞台で実戦したからだ。

 ストークがその戦術を見出したのは、2006年から約7年間に渡ってイングランド人監督のトニー・ピューリスが率いた時だった。
 
 当時のストークには元々槍投げの選手だったという異色の経歴を持つデラップがいた。その彼の遠投の才能をピューリスが見出し、敵陣でのスローインの際には、ロベルト・フートとライアン・ショークロスという190センチを超える大型CBを最前線に上げる戦術を完成させた。

 もちろん、それだけがピューリス・サッカーの武器ではなかったが、対戦相手は軒並み"力業"に屈した。そのことはアーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督が、「ラグビーチームであり、アンチフットボールだ」と非難したことからも分かる。ちなみに博識高いフランスの名伯楽はストークと対戦する際には、デラップのロングスロー対策のために毎回2日を懸けていたという。

 だが、ヴェンゲルが嫌ったほどのストークの作戦が功を奏しても、イングランドで、その特殊な戦法が根付くことはなかった。一体それはなぜなのか――。

【動画】まさにキャノン砲! ヴェンゲルが嫌ったデラップのロングスローはこちら

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