【安永聡太郎】マドリーのクラシコ快勝をもたらした異次元の「補完性」。それでも連覇は難しいと考える理由

2020年10月28日 木之下潤

マドリーの守備戦術の中心はS・ラモスとカゼミーロだ

クラシコの基本フォーメーション。

 今シーズン、初のクラシコ「バルセロナ対レアル・マドリー」は3-1でマドリーが勝利した。だけど、前半は決してチームがうまくハマっていたたわけではない。序盤の反応を見ると、バルサのトップ=アンス・ファティ、トップ下=メッシという縦関係を予想していなかったようだった。どう捕まえるのかが明確でなかった。

 そんな流れのなか、同点に追いつかれた後から、少しずつ選手たちが「今日のバルサに対してどう守備を作るか」ということに適応していった感じだった。そのポイントとして、最終ラインのヴァランヌとセルヒオ・ラモス、後方のGKクルトワとボランチのカゼミーロで形成するひし形が「どう最後の部分でやられないか?」が明確になっていった点が挙げられる。

 この試合はキャプテンのセルヒオ・ラモスの偉大さがあらためて象徴されたよね。

 バランスでいうとセルヒオ・ラモスが前に食いつきに行って、ヴァランヌが後ろをケアすることが時間とともにはっきりした。負傷したナチョに代わって右SBにルーカス・バスケスが入ると、右のウイングのアセンシオが、守備時はバルサの左SBのジョルディ・アルバを見るように、ハーフタイム以降から決まった。

 現在のバルサは何がこわいか?

 それは一番がもちろんメッシで、次がジョルディのDFラインの背後を突く動きだ。それに対応するために、アセンシオを下げて、ちょっといびつに5バック気味の守備陣形にした。中盤がバルベルデ、カゼミーロ、クロースの3枚で、変則2トップっぽい形でヴィニシウスとベンゼマが前に陣取る。守備時はヴィニシウスが下がり、ボールサイドで右SBのデストのマークを行なう。

 そんな可変システムの中でセルヒオ・ラモスが大きな役割を担っていた。後ろが5枚になると、普通は後方過多になって重くなるんだけど、マドリーはセルヒオ・ラモスがどんどん前を掴みに行く。通常だと中盤3枚の脇あたりを突かれるケースが多いけど、彼はそこに向かってどんどん守備を仕掛けていた。後ろではヴァランヌやメンディがしっかりカバーしているから成り立っているんだよね。

 5-3-2、あるいは5-4-1になるシステムの隙間というか、綻びをセルヒオ・ラモスが前に積極的に守備に向かうことで摘み取っていた。仮に突破されても、最終的にはペナルティエリア内で仕事させないようにカゼミーロが丁寧にスペースカバー、プレスバックをしている。

 彼の良さは、トップスピードで守備をしないことだ。

【動画】バルサは猛抗議!勝負を分けたS:ラモスのPK獲得シーンはこちら
 攻撃時にボールをコントロールできないなら「無闇にスピードを上げるな」とよく言うけど、それは守備時にも当てはまるよね。カゼミーロを見ているとよくわかる。独特の足を引きずるような太ももの上がらない走りで、先に先にポジションをスライドしながら動いて、本当に先回りがうまい。

 自分の背後をとられたり、センターバックとの間にボールを入れられたりしたときには、プレスバックして戻りながらボール保持者を突きにいっている。足先だけじゃなく、腰から入るように相手を突きにいくから足先の選手とは守備時の距離感が違う。相手のバランスを崩させるくらいの距離感で最低限の守備をしているから、仮に剥がされても相手はスムーズにイメージ通りには次のプレーに進めない。

 彼は攻守において「あえて」トップスピードになりすぎないくらいのテンポでプレーをしている。だから、ミスが少ないし、確実なパスやボール奪取ができる。トップスピードになると重心が崩れやすくなるし、精度が落ちるからね。

 カゼミーロのプレーを見ているとあらためて「守備の原理原則+個性」を感じさせてくれる。なおかつ素晴らしいのが、自分以外の選手がボール奪取したときにスッと動いて、彼がミラー役となってワンクッション触れて前へとボールを供給する役を務める。

 カゼミーロは自分が奪っても、味方が奪っても素早く動いてワンクッション役になれるんだよね。普通は味方が奪ったらワンテンポ「間」を置いて動き出す選手が多いんだけど、彼はその間を必要とすることなく、次へ移行できる。むしろグッとギアを上げている。

 でも、ボールを受けるその瞬間は減速しながら良い場所と良いタイミングでミスなくコントロールして安定的に次につなげる。

 それが世界最高峰のボランチの一人として、ブラジル代表でも欠かせない選手になっている理由だと思う。あのスプリント能力しかないけど、全体のバランスを見ながら攻守に絶対に外してはいけない場所の読み取れる能力がすばらしい。要は、自分の持ち得ている能力で、チームメイトと補完性を構築できる力が際立っているのだと思う。
 

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