“オルンガ封じ”でJ最高の出来。広島の荒木隼人が披露した極上の対人守備

2020年09月20日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

「なるべくシュートを打たせないことを意識してプレーしました」

広島の荒木隼人は、柏戦でハイパフォーマンスを披露した。写真:滝川敏之

 前半戦の主役だった柏のオルンガに、実にJ1の11クラブがゴールを決められた。怪物FWを無得点に抑えたクラブは、FC東京、横浜FC、川崎、大分、広島の5クラブ(清水戦は欠場)。そのうち、広島を除く4クラブが対戦した時のオルンガの状態は、リーグ再開直後や遠方のアウェー2連戦だったこともあり、明らかにトップフォームではなかった。反面、柏対広島(△1-1)の17節は前節から1週間空いた。つまり、"ベストコンディション"のオルンガ封じで、広島は今季のJリーグで最高の出来だったと言えるだろう。

 得点ランクトップのストライカーをノーゴールに抑えた最大の立役者は荒木隼人だ。

「対峙する選手が得点王のオルンガ選手。いろんな場所からシュートを決めていたので、まずはなるべくシュートを打たせないことを意識してプレーしました」

 荒木の頭の中はよく整理されていた。象徴的だったのが58分や64分の1対1。オルンガに縦パスが入ると、荒木は無暗にフィジカルで勝負せず、オルンガがターンしてきたら力を使い、自由を与えなかった。このようにオルンガの仕掛けを見極め、その瞬間にパワーを出すシーンは多かった。食いつき過ぎたら交わされるのは自明の理で、例えばハットトリックを許した仙台DFはまんまとやられた典型例だろう。
 もうひとつ、荒木の守備で良かった点は、オルンガを常に視界の中に収めていたことである。DFとしては当然すぎるセオリーなのだが、それをできていないDFは残念だがJリーグに多い。実際にオルンガの得点シーンを振り返っても、クロスで背後を取られてヘディングされたり、膨らむ動きで裏へ抜け出すオルンガを捕まえられないDFはかなりいる。それはケニア人FWの身体能力が高いから対応できなかったと見るべきではない。

 理由は荒木の守備を見ればよく分かる。広島の23番は、常に自分の近くにオルンガを置き、首を振って怪物FWを視界に収めた。柏の攻撃は横に揺さぶってくることも特徴のひとつだが、ボールの位置に応じてポジショニングと身体の向きを何度も修正。とにかく準備が良いから、荒木がオルンガに背後を取られるシーンはほぼなかった。

 荒木が披露した極上の対人守備は、今季に"オルンガ封じ"にチャレンジしたJリーグのDFたちのなかで、最高の出来だったと言えるだろう。実際に城福浩監督も「よく耐えてくれた」と称賛。大卒ルーキーだった昨季にA代表に招集されたほどのポテンシャルは、やっぱり本物だったと改めて感じた。

次ページ手放しで称賛はできない。失点シーンでは…

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