マドリーの構造的欠陥を見抜いたグアルディオラの「奇襲的采配」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年08月11日 小宮良之

S・ラモス個人の穴はミリトンが埋めたが…

(左から)G・ジェズス、スターリング、フォデンの立ち位置を変えたグアルディオラの策は見事にはまった。(C) Getty Images

 チャンピオンズ・リーグ、ベスト8入りを懸けたセカンドレグ。マンチェスター・シティは、本拠地でレアル・マドリーを2-1で下し、見事に勝ち上がっている。敵地でのファーストレグも、1-2と白星を飾っていただけに優位ではあったのが……。

 シティの指揮官であるジョゼップ・グアルディオラの采配の秀逸さが目立った一戦と言えるだろう。

 グアルディオラは、若いフィル・フォデンをゼロトップ気味に最前線に配置し、右にラヒーム・スターリング、左にガブリエウ・ジェズスを置いた。本来、スターリングは左、ジェズスはトップ、フォデンはトップ下のような選手だが、定石を打っていない。言わば、奇襲的な用兵だ。

 マドリーは逆転するため、敵地でも攻めに出ざるを得なかった。ビルドアップし、主導権を握ろうとした。慣れない戦い方で、隙を狙われることになった。

 走力のあるフォデンが、背後にいるマドリーのMFカゼミーロへのコースを切りながらプレッシングでスイッチを入れる。続いてスターリング、G・ジェズスが蓋をした。これで、ビルドアップを分断することに成功。そして8分、ラファエル・ヴァランヌがもたついてボールを奪ったところ、エリア内でスターリングが押し込んだ。
 
 グアルディオラは、マドリーの構造を見抜いていた。

 マドリーは、各選手が世界的な名手でレベルが高い。しかし、守備面でリーダーシップをとっているのは、セルヒオ・ラモスである。そのキャプテンが不在の穴は大きかった。

 この日、S・ラモス個人の穴を埋めたのは、ブラジル代表エデル・ミリトンだった。実は、ミリトン自身は悪いプレーはしていない。際立ったスピードを生かしたディフェンスなどは、むしろS・ラモスの大味なディフェンスを凌駕していた。

 しかし、サッカーはチームスポーツである。ラモス不在によって、周りの選手たちがいつものプレーができなかった。例えば、つなげることを指示されていたとしても、S・ラモスなら危険度を察知し、個人の判断で単純にクリアしていただろう。たとえ不格好でも、まずは危険を回避し、腹を括って守りを固めながら、カウンターの機会をうかがうべきだったが……。
 

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