劇的な川崎のルヴァン初制覇の舞台裏ストーリー。キーマン4人が抱えた秘めたる想い

2020年04月27日 本田健介(サッカーダイジェスト)

「少しでも恩返しできて良かった」

悲願のルヴァンカップ優勝の瞬間。2019年の大会を制した。(C)SOCCER DIGEST

 2019年のルヴァンカップ決勝は壮絶な打ち合いとなった。顔を揃えたのはともに大会初優勝を狙う川崎と札幌。互いに攻撃的なスタイルを貫き、意地と意地をぶつけあったゲームは計6ゴールを奪い合い、PK戦までもつれ込むまさに死闘だった。最後に大会MVPに選出されるGK新井章太の好セーブで川崎に軍配があったが、札幌の勇敢な戦いぶりも評価されて然るべきものだった。

 これまで4度、決勝で涙を飲んできた川崎にとっては悲願の大会初制覇だ。120分、そしてPK戦の裏では選手たちの様々な想いが交錯していた。

 120分を終えてスコアは3-3。決着がつかず、もつれ込んだPK戦で、ヒーローになったのは所属7年目(今季、千葉に移籍)、控えGKとして短くない時間を過ごした"魂の守護神"新井章太だった。

 PK戦は両チームとも3人目まで成功。しかし、川崎の4人目、車屋紳太郎が放ったキックはクロスバーに嫌われてしまう。続く札幌の4人目、ルーカス・フェルナンデスはゴール右に成功。川崎の5人目、家長昭博は冷静に成功させたが、次のキックを決められれば札幌の優勝が決まる絶体絶命の状況。しかし、周りの声が耳に届かないほど新井は集中し切っていた。

「実を言うと、5人目のキッカーと対峙する直前まで、『これ5本目か。決められたら負けじゃん』と置かれた状況に気付いていなかったんです。それほど一人ひとりのキッカーとの勝負に集中していて、相手の蹴る方向を読むことだけを考えていた」
 プロとしてPK戦を守るのは初の経験。それでも後から考えれば、あれがゾーンに入った感覚だったのだろう。

「いつも以上にボールが見えていて身体が予想以上に動いた」

 札幌の5人目、石川直樹の動きを最後の瞬間まで見極める。蹴る直前、相手の足が開いたのが分かった。その瞬間、右方向へ思い切ってジャンプ。見事なセーブでチームの窮地を救うと、長谷川竜也が決めて迎えた相手の6人目、進藤亮佑のキックは一度、左に動きかけながら我慢して、右へ飛ぶ。見事にボールをキャッチして歓喜の瞬間を迎えた。

「自分は(2012年に東京Vを退団して)フロンターレに拾ってもらった身。少しでも恩返しできて良かった」

 ウイニングボールを抱えた男は「直前まで見ていたラグビーワールドカップの影響」と、駆け寄るチームメイトを抜き去りながら豪快なトライで喜びを表現。大会MVPに選ばれた守護神の活躍あってこその優勝だった。

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