高校女子サッカーに新星! 部員わずか”13名”のAICJはいかにして選手権行きの切符を掴んだのか

2020年01月01日 西森彰

部員ひとりでスタートした「AICJ女子サッカー部」

12名の1年生と1名の2年生。中国大会で堂々3位に食い込んだAICJの実力はダテではない。写真提供:AICJ

 高校女子サッカー界は、頂点を狙うニューフェイスが次々と誕生している。

 その代表格は、創部5年で昨年の高校女子サッカー選手権を制した星槎国際湘南だろう。そして今年度、広島からも、頂点を目ざす新星が現れた。学校名はAICJ。13名の部員で、広島県予選、中国大会を突破し、全国の舞台に上がる。

 同校の指揮を執る小川潤一監督は、かつて名古屋グランパスU-18でプロを目ざした。しかしトップチーム昇格は叶わず、大阪体育大に進学。そして3年時に、選手から指導者へ目標を変更した。

「大学2年までは真剣に選手を目ざしていたんですけれども、そこで伸び悩んだという部分もあって、大学3年の時に指導者の道を志しました。大学の B チームの監督などをしていた頃、当時の監督さんに相談をして、短期間でしたが、本田圭佑選手がいた時期の星稜高校で外部コーチをしました。自分は B チームのほうを主に見ていたので、実際には彼のプレーを指導していたわけではないんですけれども」

 大学卒業後、広島に戻り、シーガル広島で本格的に指導者としてのキャリアをスタートする。のちにサンフレッチェ広島へ進み、年代別代表へと駆け上がった野津田岳人を指導したのが、ちょうどこの時期だ。

「彼は小2から4、5年、見ていました。もう、全然、違いましたね。小2でインサイドキックをバンバン蹴ることができるし、駆け引きもできるし……。『こういう子がプロになるんだろうな』というイメージは持っていました」
 
 最初はスクールとして誕生したシーガル広島。実績を積みながら、徐々に組織を拡大させ、やがて15歳以下の女子を対象とした、シーガル広島レディースを創設する。
 
「女子のほうは2015年に立ち上げました。この時、中1は井上歩乃華を含めて5人。小5、小6その他の小学生を含めて20人ぐらいのチームでした。今の高1のメンバーにも、小学生からやっていたメンバーが5人いますね」

 現在はFリーグに所属する広島エフ・ドゥでプレーしていた小川監督は、「サッカーとは別のスポーツだけれど、共通項も多い」と、チームをフットサルの大会にも積極的に参加させた。そして2018年、シーガル広島レディースは、全日本U-15女子サッカー選手権に初出場を果たし、年明けの全日本U-15女子フットサル選手権ではベスト4まで進んだ。

 
 小川監督には、シーガル広島レディース立ち上げ時から「将来的にはU-18でも」という構想があった。ただ高校では、中学校以上に各校ごとのスケジュールや環境の違いが大きくなり、活動に支障をきたすクラブチームが少なくない。
 
 そこで、小川監督がアプローチした先が、AICJ高校だった。学校関係者が、この構想を快く受け入れ、2018年、AICJ高校女子サッカー部が誕生した。

「本当は『U-18のクラブでやろうかな』という構想があったんですけれども、AICJ高校にお話を持っていってお願いしてみたら『じゃあ、やってみよう』と快諾いただいたので、もう高体連チームとしてやっていこうと」

 最初の部員は、井上歩乃華ただひとりだった。シーガル広島レディースの立ち上げ時に中学1年生だった同期生4人は、別の学校に進学したが、彼女はAICJ でサッカーを続けることを選んだ。

「初めてクラブチームに入ったのがシーガルで、なにもかもが初めて。背番号をもらったのも、スパイク、ユニホームを揃えたのもシーガルが初めて。最初はパスもままならなかったんですけれども、みんなに遅れないように、毎日、必死に頑張りました。初めてのコーチが、潤さんだったし、どこかで潤さんに付いていきたいなというのがあって……。他の友だちも AICJ に行こうかどうか考えていたらしいんですけれども、最終的にはひとりになりましたが、それでも潤さんのもとで頑張りたいと思って決めました」(井上)

 もちろん、部員ひとりでは練習もできない。井上は、これまで通り、シーガルの練習に参加しながら、1年間、仲間が増えるのを待った。翌年、全日本U-15女子サッカー選手権に出場したメンバーを中心にシーガル広島から10名、その他の学校から2名、合計12名が、AICJ女子サッカー部に入部。チームとして本格スタートを切った。

「井上には感謝しています。彼女が初年度から部員になってくれたことで、翌年から公式戦に出場できる礎ができました。今年、公式戦に出られるようになり、約束を果たせたことにホッとしました」(小川監督)

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