J2首位を快走する水戸の原動力は一体感。良好なチーム状態を裏付ける監督・スタッフの秘話

2019年05月04日 佐藤拓也

この結果を生み出しているのは監督と選手の力だけではない。

11節終了時点で、水戸はいまだ負けなしだ。写真:徳原隆元

「無敗対決」として注目された9節の甲府戦。勝負は終了間際の志知孝明の一撃で決まった。
 
 90+4分、ペナルティエリア前で得たFK。キッカーの志知が左足を振り抜くと、ボールは壁の一番外に入った清水慎太郎がしゃがんだ頭上をピンポイントで抜けていき、ゴールネットに突き刺さった。GKが一歩も動けない、完璧なシュートが決まり、水戸が劇的な勝利を挙げたのだった。
 
 試合後、長谷部茂利監督は決勝ゴールについて、「志知が練習をしているFKをものの見事に決めてくれました」と志知のキックを称えながら、こう続けた。「周りの協力があって彼が決めることができました」。
 
 試合前日のことだった。セットプレーを担当する河野高宏GKコーチは選手たちを集めて、ある映像を見せた。それは壁の上ではなく、壁の一番外に入った選手の頭上を抜いてゴールを狙うFKの映像であった。「FKはキッカー以外の選手たちにも大事な役割があるんじゃないかということを伝えるために見せました」と河野GKコーチ。終了間際、まさにそのシチュエーションが訪れたのだった。
 

 FKを獲得した際、志知に歩み寄ったのは清水慎太郎だった。そして、「俺が壁の外で潰れるから」と声をかけた。それはつまり「昨日見たFKをやるぞ」という意志の共有でもあった。ふたりの呼吸がピタリと合ったことでゴールが生まれた。「準備したことを実行して結果につなげた。スタッフも選手も素晴らしい仕事をしてくれました」。試合後、西村卓朗強化部長は興奮気味に口にした。
 
 この結果を生み出しているのは監督と選手の力だけではない。コーチングスタッフの力も欠かすことはできない。昨季、長谷部監督が就任したが、河野GKコーチ以外のコーチングスタッフも新任として水戸にやってきたのだ。チーム作りを行なう中で監督とスタッフ陣の信頼関係の構築していく必要があった。「1年前はお互いが分かり合うまで時間がかかるところがありました。どんなに説明しても、構築していくのには時間がかかるもの。でも、そこからしっかり関係を築くことができました」と長谷部監督は振り返る。
 
 たとえば、昨年はスタートダッシュに成功したものの、そこから怪我人が続出して失速してしまった。長谷部監督は「私と樋口(創太郎)コンディショニングコーチのコミュニケーションが足りなかった」と反省する。就任1年目で「チームとしてやりたいことや伝えたいことがたくさんあった」長谷部監督と、コンディションを整えたい樋口コンディショニングコーチと意見がかみ合わず、練習の負荷が増えてしまうことがあったという。
 

次ページ“一体感”こそ、長谷部監督が最も大切にしている言葉だ。

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