心優しいサポーターの愛に甘えるな。神戸は「日本のバルサ」になる覚悟を示せるか?

2019年05月01日 吉田治良

良い時も悪い時もホームスタジアムはいつも温かく、アットホームな雰囲気に包まれる

新キャプテンのイニエスタを中心に、川崎戦は良い試合の入り方をしたが……。写真:徳原隆元

 ノエビアスタジアム神戸の南側スタンドに、白いハートを模したコレオグラフィが浮かび上がる。そのハートが鼓動を打つように響き渡るのは、『愛の讃歌』を原曲とするお馴染みの『神戸讃歌』だ。
 
 ヴィッセル神戸のサポーターがクラブに注ぐ深い愛情は、未来への希望に満ちていたサガン鳥栖とのホーム開幕戦(2節)も、リーグ戦3連敗中と下降線を辿るなかで迎えたこの川崎フロンターレ戦(9節)も、なんら変わりはなかった。
 
 とはいえ、チーム内の混乱はもはや包み隠せないだろう。
 
「バルサ化」の陣頭指揮を執っていたフアン・マヌエル・リージョ監督が、開幕から2か月も経たずに突如辞任。それに呼応するようにルーカス・ポドルスキは、「誠実でない人間からは忠誠心を期待すべきでない」という意味深なメッセージとともに、みずからキャプテンの座を降りている。
 
 そして、開幕前に話題を呼んだダビド・ビジャ、アンドレス・イニエスタ、ポドルスキの「VIPトリオ」も、5節のガンバ大阪戦以来、一度も揃い踏みがない。いずれも故障が欠場理由だが、カオスに片足を突っ込みかけているチーム状態に紐付けて、つい穿った見方もしたくなる。自身のツイッターで川崎戦の欠場を明らかにした前キャプテンが、出場メンバーに関する情報を試合前に公にしたとチームから事情聴取を受けるような騒ぎがあれば、なおさらだ。

 現在の神戸は、秩序とガバナンス(統治能力)を欠いている。「バルサ化」という大きな花火を打ち上げたが、その旗振り役を失い、さらに結果が出ないことで、選手が自分たちのサッカーに対して、もっと言えばクラブの方向性に対して、疑心暗鬼になりつつあるようにも映るのだ。
 
 それでも、ファン・サポーターは変わらぬ愛情を注いでくれる。イニエスタやビジャを目当てに、この1年ほどの間に神戸のサポーターになった方が少なくないことも影響しているのかもしれないが、良い時も悪い時もホームスタジアムはいつも温かく、アットホームな雰囲気に包まれる。
 
 そうした優しさに、無償の愛に、どこかで甘えてはいないだろうか。

次ページようやくアクセルを踏み込むのは、ハーフタイムを挟んで鞭を入れ直してからだ

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