熱血監督・池田太が明かす「ヤングなでしこ、世界一への舞台裏」

2018年09月03日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

涙を流した記憶はないんですけどね(笑)

もはや恒例の「フトシ・ポーズ」で集合写真。根っから明るく、そして向上心が図抜けて強いチームだった。(C)Getty Images(サッカーダイジェスト写真部)

 いわゆる"熱男"(あつお)は今年の1月、私に決意と意気込みのほどを話してくれた。
 
 こちらは高校サッカーダイジェストの編集長を兼務している関係で、ユース年代の女子選手にもそれなりに明るい。何人かの選手の名前を出すと「おー、嬉しい!」と喜び、言葉にはさらに熱がこもった。
 
「本気で世界一を狙っているし、選手たちもずっとその目標に向かって取り組んできた。ワールドカップで世界を驚かせたいんですよ」
 
 あれから7か月。フランス北部のブルターニュ地方で開催されたFIFA U-20女子ワールドカップは、まさにヤングなでしこことU-20日本女子代表のための大会となった。
 
 アメリカ、スペインと同居した熾烈なグループリーグをかろうじて勝ち抜くと、決勝トーナメントではドイツ、イングランドを持ち前の攻撃力と機動力でねじ伏せた。そして決勝ではグループリーグで0-1の惜敗を喫したスペインとふたたび相まみえ、鮮やかに3-1で撃破する。初のファイナル進出で、初の頂点に輝いたのだ。

 
 彼女たちの傍らには常に声を張り上げ、手を叩き、寄り添い続けた47歳の指揮官、池田太の姿があった。文字通りの有言実行である。
 
「これね、けっこう重いんですよ。持ってみてください」
 
 8月30日、JFAハウスで再会した池田は、そう言って笑った。
 
 ジェラルミンのケースから取り出されたのは、持ち帰ったばかりの銀色の優勝トロフィー。それまで女子サッカーにほぼ縁がなかった男は、いかにして就任からわずか1年半で、若き乙女たちを世界一へと導いたのか。話を聞けば聞くほど、その成功譚は偶然ではなく必然であったのだと思い知らされる。
 
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 優勝までの道のりは、決して平坦ではなかった。
 
 とりわけグループリーグは苦戦を強いられ、第3戦を前に1勝1敗。2位抜けするためには、パラグアイ戦での大量得点が不可欠だった。一戦必勝でドラマチックなシーンが連続するなか、チームは逞しく、一枚岩の闘う集団になっていったという。
 
「自分たちでなにかをなし遂げようとする意欲を、選手たちからものすごく感じましたね。選手同士で話し合うことも増えたし、その内容の質も変わっていった。ピッチ上でお互いが確認し合ったり、良い雰囲気になってきてるなぁと思いながら見ていました。やはり初戦で強敵のアメリカに勝てたのが大きかったですよ。グループリーグは本当に厳しい戦いが予想された。あそこでしっかり3ポイントを獲れて、スイッチが入ったところはあります」
 
 第2戦でスペイン相手に黒星を喫し、迎えた最後のパラグアイ戦。その試合を目前に控え、池田が選手たちを奮い立たせる。
 
「特別変わったことをしたわけでもないし、選手たちが言うように涙を流した記憶はないんですけどね(笑)。アメリカと勝点で並んでましたから、パラグアイ戦はどうしてもゴールがたくさん欲しい。だからゴールシーンをいっぱい集めた映像を見せたんです。それこそロシア・ワールドカップや南アフリカ大会の日本代表の得点場面とか。グッと盛り上げながらミ-ティングを続けていって、彼女たちもジーンと来ている感じがあったかなと。そのなかで涙は……いや、どうだったかな。なんにせよ、結果は6対0ですからね。大したものですよ」

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