イニエスタがイニエスタであるために――神戸に求められる根本的な変化

2018年07月24日 清水英斗

テクニックと状況判断に裏付けられたプレーは、わずか30分でも存分に発揮された

Jデビュー戦は0-3で敗れたが、能力の高さは随所に見せた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 ヴィッセル神戸のベンチ入りメンバーに「アンドレス・イニエスタ」の名前を見つけても、今ひとつ現実感が無かったのは正直なところだ。しかし、59分にピッチに立ち、彼のファーストプレーを見た瞬間――。ボールを足下に止め、簡単なインサイドターンで背後から寄せる相手の逆を取り、前進して行った、あのワンプレー。あのターンひとつで説得力は充分だった。本物だ! 本当に彼が来たのだと、実感した。
 
 本来のパフォーマンスを発揮できるのかどうか、不安もあった。しかし、それも杞憂に終わる。日本の気候が蒸し暑くても、ワールドカップ直後でフィジカルコンディションが100%ではなくても、イニエスタは、イニエスタ。元々フィジカルで勝負するタイプではない。テクニックと状況判断に裏付けられたプレーは、わずか30分のプレーでも存分に発揮された。
 
 特に顕著だったのは、ファーストタッチの前方コントロール。あっという間に自分の右足にボールを置き、相手ゴールに視界を広げる。これにより、イニエスタは自分の周囲に見えない円を作っている。それは彼の間合いだ。いつでもボールに触ることができる状態であり、うかつに近寄って来る相手がいれば、その勢いを利用して瞬時に入れ替わってしまう。
 
 この無敵の間合いを、イニエスタはほぼ2タッチ以内で作り出す。ボールを受けるとき、パスが身体の反対側に来てしまったとしても、軸足の裏を通してトラップし、あっという間に前を向く。あるいはサイドチェンジのような強い浮き球だったとしても、勢いを殺しつつ角度を変えて小さくリフティングし、身体の前へぽとりと落とす。そのバウンドボールも、2タッチ目でつま先を出し、スッと受け止めて地面に置く。
 
 グラウンダーなら1タッチ。浮き球や難しいパスだったとしても、ほぼ2タッチ以内。完璧なコントロールが完了する。その無駄のない所作には、美しさすら漂う。
 
 普通の選手なら、これほどスムーズに自分の間合いを作れるものではない。よほどフリーでボールが回ってきたのなら、話は別だが、サッカーでそのような理想のパスが回ってくるシーンは決して多くはない。ボールキープに一生懸命で、相手ゴールに対して横向きや後ろ向きになりがちな場面のほとんどを、イニエスタはあっさりとゴールへ向き直り、当たり前のように仕掛けの場面に変えてしまう。
 

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