【現地発】カシージャスはなぜ「不良債権」になったのか?

2017年10月29日 エル・パイス紙

ポルトでも異例の高年俸が後に自分を苦しめる…。

序盤戦は守護神だったカシ―ジャスだが、直近4試合は出番なし。なにが起こったのか? (C)Getty Images

 世界でもっとも巨大な影響力を持つ代理人ジョルジュ・メンデスは、2015年春に周囲を唖然とさせる仰天の移籍オペレーションを実現させた。世界屈指のGKであるイケル・カシージャスのレアル・マドリーからポルトへの移籍だ。
 
 当時のポルトは深刻な資金難に喘ぎ、新戦力の獲得にも大きな投資ができない状態だった。一方のマドリーは、ひとりの選手の進退問題としては過去10年で最大規模の社会問題に発展したキャプテンの処遇を巡り、解決策を探していた。
 
 この双方の思惑が複雑に入り乱れる中、両者の橋渡し役を買って出たのが、カシ―ジャスの直接的な担当ではないものの、両クラブと深い関係にあるメンデスだった。しかし当代屈指の敏腕代理人といえども、3者が納得して満足する着地点を探すのは容易ではなかった。まず水面下で両クラブの合意を取り付けた後、第三者を介して選手サイドに条件を提示した。
 
 そんな中、解決のキーパーソンとなったのが、メンデスのクライアントであり、当時ポルトの監督を務めていたジュレン・ロペテギだった。現スペイン代表監督である彼の後押しが決め手となり、スペイン・サッカー界のレジェンドのポルト入りが決定した。ただ取り決められた年俸はポルトでは異例の高額であり、それが後にカシージャスを苦しめる障壁となっている。
 
 オブドゥリオ・バレラ、ジュゼッペ・メアッツア、ボビー・ムーア、フランツ・ベッケンバウアー、ディエゴ・マラドーナ、ローター・マテウス、ドゥンガ、ディディエ・デシャン、カフー、ファビオ・カンナバーロ、フィリップ・ラーム――。サッカー史においてワールドカップ・トロフィーを掲げた歴代優勝チームのキャプテンは、一様にその偉大なキャリアに相応しい晩年時代を過ごしている。いずれも偉業を成し遂げた母国の英雄として国民の崇拝の対象であり続けた。2010年の南アフリカ大会で優勝トロフィーを掲げたカシージャスはそんな中で、唯一の例外的な存在と言える。
 
 とりわけ近年は試練の連続で、その発端となったのは言うまでもなくジョゼ・モウリーニョ政権時代に受けた冷遇だ。この件がきっかけとなってマドリディスタ(マドリーファン)の心象まで悪化。結局そうした様々なネガティブな事象が重なった結果、2015年夏にカシージャスは不本意極まりない形でマドリーを退団せざるをえなかった。
 
 キャリアの晩年でイメージを低下させたのは、同国歴代最多の167キャップを保持するスペイン代表においても同様だ。EURO2016期間中にはダビド・デ・ヘアに守護神を託したビセンテ・デル・ボスケ監督との確執が表面化。そのまま代表から遠ざかる状況となっている。かつて英雄として崇められていた"聖イケル"は、こうしてキャリアの終盤に差し掛かり"悲劇の主人公"に転落してしまったのだ。
 

次ページ指揮官は「戦術的な理由」と説明するが…。

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