【蹴球日本を考える】6万大観衆のなかで際立った昌子源の余裕と鹿島の老獪さ

2017年05月05日 熊崎敬

闘牛士さながらに武藤を振り回すセンターバックのプレーにサポーターは大歓声。

敵地・埼玉スタジアムで浦和を無失点に抑えた鹿島。その守備を統率する昌子のプレーは周囲に安心感を与える余裕がある。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 埼スタが6万近い大観衆で埋め尽くされた首位攻防戦、もっとも印象に残ったのは鹿島センターバック昌子源のプレーだった。
 
 鹿島は24分、金崎夢生が先制点を決めたが、序盤から浦和に押し込まれていた。その中で30分、昌子が素晴らしいプレーを見せる。
 左サイドから攻め込んできた関根貴大からボールを奪うと直後、間髪入れず奪い返しにきた武藤雄樹を翻弄。2度のキックフェイントを織り交ぜ、闘牛士さながらに武藤を振り回したのだ。このプレーに、背後の鹿島サポーターから大歓声が沸き上がった。
 
 アウェーの大観衆の中で、こういうプレーができるのは余裕がある証。
 精神的なゆとりをプレーで見せることで仲間に落ち着きをもたらし、敵の勢いを殺す効果がある。このプレーがあったから、とは言わないが、このあたりから鹿島は浦和のリズムを壊し、巧みに流れを引き寄せていった。
 
 それにしても昌子は目を見張る成長を遂げている。
 1対1で負けることはほとんどなく、奪い返したあとの判断にも間違いがない。浮いたボールをヘッドで跳ね返すだけではなく、胸でトラップして持ち上がり、前線につなぐことも多い。闘莉王にも当てはまることだが、周りが見えていて、足もとのテクニックに自信がなければできないことだ。
 
 実際に昌子がボールを奪い取ると、ピンチが収まり、試合が確実に落ちついてくる。ひとつのプレーで空気を変えてしまうセンターバック、これは貴重だ。
 
 昌子についてはここまで。次に鹿島の勝因を考えたい。
 
 鹿島は、浦和の強みであるコンビネーションを分断することに成功した。
 レオ・シルバや小笠原満男が中央の興梠慎三を抑え込んで試合から消し、左サイドでは西大伍が守備的にプレーすることで関根のドリブルにふたをした。
 浦和は中でも外でも自在に連係が使えるが、鹿島は興梠と関根というキーマンを潰すことで、浦和の攻撃力を半減させることに成功したのだ。
 
 浦和から華麗なつなぎが消え、試合は乱戦模様になった。ここで浮かび上がったのが、鹿島一人ひとりのしたたかさである。
 球際の強さ、ファウルをもらう狡猾さ、コーナー付近での時間稼ぎからのレフェリーへの異議申し立て……。まるで老獪なプロレスラーを見るかのようだ。
 

次ページストライカーでも粘り強く守備をすることを厭わないチーム。

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