【現地発】バルサの歴史的奇跡、その時カンプ・ノウは――

2017年03月10日 工藤拓

9万6000人超の観衆が歌うイムノ(応援歌)が響き渡る。

決戦の日のカンプ・ノウは超満員に膨れ上がり、横断幕や旗が揺れた。(C)Getty Images

[チャンピオンズ・リーグ 決勝トーナメント1回戦セカンドレグ]バルセロナ 6-1 パリSG/3月8日(水)/カンプ・ノウ
 
 殊勲のセルジ・ロベルトに選手達が次々とのしかかり、人の山ができる。
 
 ピッチ上ではベンチから飛び出した控え選手や監督、スタッフらが飛び跳ね、拳を突き上げ、抱き合い、各々に喜びを表現している。
 
 疑いながらも希望が芽生え、次第に期待が膨らみ、確信となりかけたところでどん底に突き落とされ、そして最後の最後にこの上ない幸福に満たされる――。
 
 これほど大きな感情の起伏をもたらした95分間が、かつてあっただろうか。
 
 3月8日、カンプ・ノウ。
 
 大音量のBGMに合わせて、アスルグラナ(青とえんじ色)とセニェーラ(カタルーニャ州旗)を合わせたフラッグが、スタンド中でゆらゆらと揺れている。
 
 試合開始10分前。すでにスタンドはほぼ満員だ。カンプ・ノウいっぱいに、9万6000人超の観衆が歌うイムノ(応援歌)が響き渡る。
 
 選手入場に合わせてバックスタンド上部から巨大なフラッグが現われ、「TOTS AMB L’EQUIP(皆がチームと共に)」の文字が浮かび上がる。ゴール裏の角にはフランス語で「ようこそカタルーニャ共和国へ」と綴られた横断幕も掲げられている。
 
 ブーイングに包まれたUEFAアンセムが流れ終わり、選手達がピッチへ散ってゆく。20時45分。不安と期待が入り混じる中、決戦が始まった。ファーストレグの0-4を引っ繰り返すための戦いが。
 
 バルセロナのシステムは予想通りの3−4−3。ラフィーニャとネイマールが両サイドの高い位置に張り出し、両CBと駆け引きを繰り返すルイス・スアレスとともに相手DFの押し上げを阻む。すぐにパリSGを自陣ペナルティーエリア手前まで押し込み、試合はハンドボールのようなワンサイドゲームに持ち込まれた。
 
 最初の歓喜は早々に訪れた。3分、スアレスのヘディングシュートがゴールラインを割り、早くもスタンドは総立ちになる。
 
 しかし、パリSGもルーカスがドリブルで敵陣への侵入を試みれば、11分にはユリアン・ドラクスラーのクロスがハビエル・マスチェラーノの手に当たり、あわやPKというシーンも。直後のCKでもボールがセルヒオ・ブスケッツの胸を強襲し、カンプ・ノウは立て続けに息を飲んだ。
 

次ページ一時は「やはり不可能なミッションだったのか……」と。

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