異常かつ危険なインテルの「権力のねじれ」…後任監督人事でも意見が割れる

2016年10月25日 片野道郎

現地マスコミは一斉に解任論を書き立てる。

(左から)トヒル会長、サネッティ副会長、張近東オーナー、ボーリングブロークCEOというインテルの首脳陣。しかし、責任の所在や決定権が判然としない。(C)Getty Images

「水曜日(のトリノ戦)に私がいるか? それはわからない。私はただ全力で自分の仕事をするだけだ」
 
 日曜日にアウェーのアタランタ戦(セリエA9節)を落とした後のインテル、フランク・デブール監督の言葉である。これでセリエAでは3連敗、順位はヨーロッパよりもセリエBにずっと近い14位タイまで落ち込んだ。説得力のある戦いでユベントスにシーズン初黒星をつけ(4節)、スクデット争いに参入かと囃し立てられた1か月前と比べれば、まさに「天国と地獄」である。
 
 1-2で敗れたこのアタランタ戦でのインテルは、終始主導権を握ることができず劣勢に立たされ、50分にエデルがFKからゴールを決めた以外、決定機らしい決定機はほとんど作れないという不甲斐ない戦いぶり。就任以来一貫して「時間が必要。チームは少しずつ良くなっている」と言い続けてきた指揮官の立場は、ますます難しいものになってきた。
 
 マスコミは「インテル墜落。デブール早くも解任か?」(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)、「デブール丸難破、クラブからも選手からも見放され孤立」(ラ・レプブリカ紙)、「水曜が最後のチャンス。敗れれば解任」(コリエーレ・デッロ・スポルト紙)と、一斉に解任説を書き立てている。
 
 この危機的状況を受けて、中国からはオーナーである蘇寧グループ・張近東会長の子息で25歳のスティーブン(張康阳)が南京からミラノに到着。マイケル・ボーリングブロークCEO、ハビエル・サネッティ副会長、ピエロ・アウジリオSDらとピネティーナ(インテルの練習場)に集まり、中国、そしてインドネシアのエリック・トヒル会長も加わったビデオ会議で、後任監督人事について話し合った。
 
 後任候補として名前が挙がっているのは、ステーファノ・ピオーリ(前ラツィオ監督)、レオナルド(現在はTV局『スカイ・イタリア』のオピニオニスト)、アンドレ・ヴィラス=ボアス(前ゼニト監督)、ロラン・ブラン(前PSG)など。デブールを推したトヒル会長(水曜日にミラノ到着予定)は、解任そのものに反対であり、「現指揮官にもう少し時間を与えるべき」という立場を取っていると言われている。
 
 ピオーリを推しているのはアウジリオSDなど現場のイタリア人幹部、レオナルドはサネッティ副会長とそのバックにいると言われるマッシモ・モラッティ前会長(現在は経営から手を引いているが、トヒル会長から株式を買い戻す可能性が噂されている)のアイディアだ。ヴィラス=ボアスとブランは、蘇寧グループに近い代理人キア・ジョーラブシャン(詳しくは後述)が推してくる可能性があると伝えられる。

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