【育成年代の深層】ロクFCが掲げる普遍の哲学。結果至上の対極を行く”下手な子”ほどピッチに立てる大会とは?

2016年07月20日 手嶋真彦

どんな子でも磨けば光る。そんな思いを込めて、大会を「ダイヤモンドリーグ」と命名した。

サッカーを介した人間教育を志向する理由とは? 浅井(中央奥)の育成指導には信念がある。写真:手嶋真彦

 たとえ下手でも、サッカーは大好き――。そんな子どもたちを輝かせる少年サッカーの大会がある。極論すれば、下手な子ほどピッチに立てる大会だ。
 
「普段は試合に出ていない子どもたちを、なるべく出すようにしてください」

 緩やかとはいえ、そんな縛りを設けた主宰者の浅井重夫に聞いてみる。この大会に出ているということは、普段は試合に出ていない子どもたちなのだろうか? 浅井の目の前では、U―12カテゴリーの真剣勝負が始まっていた。
 
「普段は出ていないと思います」。ベンチウォーマーの子どもたちが躍動できるリーグ戦をあえて立ち上げたのは、浅井がこう信じているからだ。子どもたちは真剣勝負の経験を通して伸びていく。すべての教え子を成長させるのが、育成指導者の本来の務めだと。どんな子でも磨けば光る。育成指導者の浅井はそんな思いを込めて、大会を「ダイヤモンドリーグ」と命名した。

 浅井が総監督を務めるロクFCは、埼玉県のさいたま市内に本拠を構える育成クラブだ。少なからぬ卒業生がJリーグや国外のクラブでプロになっている創立36年目の名門だが、希望すればどんな子でも入団できる。ロクFCの立ち上げ当初から育成に携わり、65歳となった浅井は言う。

「良い選手である前に、良い男じゃないとね。勝負の場ではしっかり戦える。戦いが終われば、相手に手を差し伸べられる。強さと優しさ。大切なのはハートです」

 良い男を育てるのに、サッカーの素質や上手い下手は重要ではない。浅井が門戸を広く開いているのは、人間教育に重きを置いているからだ。

「そりゃあ、できればサッカーで身を立ててほしいですよ。でも、ほとんどは叶わないのが現実なんです」

 どこに行っても通用するように人間を鍛えておく。強さや優しさを伸ばすには、真剣勝負が必要なのだ。

 ダイヤモンドリーグの前後には、練習試合を組んでおくケースが多い。この日もU―12の練習試合が始まった。浅井が口やかましく言うのは「戦え」、「挑戦しろ」、「逃げるな」、「あきらめるな」だ。

次ページ子どもたちの良い手本になるのはアトレティコ・マドリー。浅井はシメオネ監督への共感を隠さない。

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